義経千本桜なのに、どうして義経はほとんど登場しないの? | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫

義経千本桜なのに義経はほとんど出ない!?





イラストby 豊竹咲寿太夫



義経千本桜は人形浄瑠璃にも歌舞伎にもある時代物の名作です。

題名に「義経」と名前が入っていることから、源平の時代の話だと想像がつきますね。


ですがこの芝居、義経はほとんど登場しないのです。




サムネイル

主人公じゃないの??








  義経ってどんな人?






源義経。

源九郎判官義経。


源氏の大将です。源頼朝の弟で、戦において多大な功績をあげた人物です。

平家を次々と倒していき、若くして頭角を表しました。しかし、兄の頼朝に朝敵と見なされ、平泉(岩手)で攻められてその命を落としました。


ドラマチックなその生涯は以後多くの人々の心をつかみ、「判官贔屓」という言葉も生まれました。


実際の容姿とは別に、物語で人々の間で伝えられる義経像は基本的に超絶美少年であることが多いです。




大河ドラマでも頻繁に登場する源義経。

彼の人生と逸話にはきりがないほど多くの物語があります。






サムネイル

義経がいなかったら沢山の物語がないところだった!








  義経千本桜って?




文化デジタルライブラリーより引用





義経千本桜、人形浄瑠璃原作の芝居です。
武家社会を描いた芝居「時代物」の名作で、大きく分けて三つの物語が展開されます。


    

・実は生きていた平知盛

・平維盛の妻子と権太

・狐忠信と静御前


それぞれのあらすじは次の機会に詳しく書きます!



三つの物語のうちふたつが平家を主軸に進みます。
そうすると、義経が平家と戦って戦に勝つ武勇伝なのかな!?と思われるかもしれません。

それが違うのです。

この芝居の義経は大きな戦を終えて、すでに兄の頼朝に追われている身。奥州へと逃げている最中なのです。この芝居の中で描かれる義経という人は千里眼をもっているかのように物事を見通し、人の命を無闇やたらに奪うことはありません。そんな義経が家族に命を狙われているという大前提のもとで物語が進むのです。

武将の平知盛はすでに戦死したとされていました。しかし実は生き延びていて義経の命を狙っています。
また平維盛も生きながらえていて姿を変えて、すし屋にいます。
義経の所有する朝廷由来の初音の鼓に使われている狐の皮、その皮を親に持つ狐が義経の家臣の忠信に化けて静御前と行動を共にしていました。

この三つの物語はそれぞれ「家族」の関係が大きくフィーチャーされます。

それらの義経に関わる人間の家族の運命を描いて、彼らを見る義経自身の「兄頼朝に命を狙われている」運命を浮かび上がらせるという構図になっているのです。




サムネイル

めっちゃドラマチック!










いかがだったでしょうか。
義経をとりまく人物たちの物語を描くことで、義経の運命を観客に示唆させる、深い余韻を残す物語になっています。


この義経千本桜、現在でも比較的頻繁に上演されます。
タイミングがあえば是非ご覧ください!




 

 

 

 

 



とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
 太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。


その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中

 

 

 


豊竹咲寿太夫
オフィシャルサイト

club.cotobuki

HOME