こんにちは。
人形浄瑠璃文楽の太夫、豊竹咲寿太夫です。
さきじゅ、と呼んでください。
今日は
“ 三浦しをんさんの小説「仏果を得ず」は文楽の中の人にとってはあるあるなの? ”
というご質問をいただいたのでお答えしたいと思います!
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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200114/16/sakiju/47/89/p/o0300030014696076734.png?caw=800)
仏果を得ず
三浦しをんさんの小説に「仏果を得ず」という小説があります。
この小説は文楽が題材となっており、近年直木賞を受賞した「渦」
とは違って、現代の文楽の演者を題材にしています。
主人公の健太夫は、若手から中堅の間くらいの位置づけの太夫。
まだまだ収入もはばからない健太夫は、友人が経営しているラブホテルの1室を格安で借りて住んでいます。
さて、彼は大阪の文楽劇場からほど近くにある小学校へ、文楽を「教えに」行っています。
その小学校では文楽の演目を児童が体得するという授業が組み込まれているのです。
その授業で健太夫は「二人三番叟」という演目を6年生の児童に教えています。
秋には親や地域の人たちを交えた学習発表会があり、1年生から5年生は劇や歌を、6年生は文楽の演目を披露するのです。
健太夫にとても懐いている女の子がいて、その子はミラちゃんといいます。
この年頃の女の子特有の、オトナの男の人カッコイイってやつです。
ミラちゃんのお母さんはシングルマザー。
派手な見た目から、絶対に危ない人だ、と健太夫は勝手に思い込んでしまいます。
そんな小学校の授業と並行して、自身の舞台の進捗も描かれていきます。
各章の名前が文楽の演目の名前になっていて、実際、その章では健太夫がその演目に出演し、技術の会得に四苦八苦する様子が描かれていきます。
また、健太夫を弾いてくれることになった先輩の三味線弾きの兎一郎も偏屈な男で頭を抱えることになってしまいます。
そんな中、健太夫に彼のポジションで本来なら舞い込まないような大役があてられます。
その演目とは
「仮名手本忠臣蔵」
勘平腹切りの段
とても有名、かつ相当重要な場面です。
これはフィクションなので、ぼくたちに実際そんなことがあるかというと、ほぼないことなので(この段は師匠格の人たちが演じる場)、それだけあり得ない仕事がきた!というラストに向かうのです。
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いろんなレビューがあって、この忠臣蔵のラストの場面は、忠臣蔵を観たことがある人ならこの健太夫の乗り越えなければならないエベレスト級の壁の大きさが分かると思うのですが、おそらく未見の方でしょう「健の乗り越える壁が小さかった」と書かれていたので、ぼくはここで猛否定(笑)しておきます。
さて、その勘平腹切りの最後で、腹を切った勘平に四十七士に名を連ねるよう血判を押させた由良之助の家来は「仏果を得よ」と勘平に言います。
これは、あの世でしっかり成仏しろよ、という心の言葉なのですが、勘平は苦しい中でそれを否定します。
「いいや、仏果は得ない、汚らわしい」
勘平は、死んでも魂はこの世に残り、かならず討ち入りに魂でも加担すると言い残したのです。
これこそが、本書のタイトル
仏果を得ず
になるのです。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200310/15/sakiju/c1/11/p/o0250025014725917503.png?caw=800)
異色の職業小説ながら、丁寧な取材と、色彩豊かな文体から、文楽を知らない人にも楽しんでいただける小説!
中の人的にはあるあるなの!?
ということをお答えしていきたいと思います。
まずはじめにお断りしなければいけないのは、この小説は丁寧な取材と度重なるご観劇のもとに練り上げられた「フィクション」です。
著者の三浦しをんさんは「文楽案内書」とでもいうべきエッセイを書かれていて、これもまた痛快で楽しいエッセイになっておりますので、ぜひ読んでいただきたいものです。
フィクションである以上、現実に起こりえないことを、まるで本当に起こったかのように描く、これが小説家さんの腕の見せ所。
つまり結論からいいますと、「あるある」ばかりというわけではありません。
具体的にどこが現実的で、どこがフィクションであるかは明言しないでおきます。
せっかく楽しく素晴らしい小説なので、この物語は何も情報なく楽しんでいただきたいと思います。
ただ、一つだけ、これは本当だよ、というものをこっそりお教えさせていただきましょう!
それは主人公健太夫が教えに行く小学校の話です。
この小学校は、
ぼくの
出身校です。
そしてこの小説が発表されたのは2007年。
ぼくが学生の頃です。
つまり、どういうことか、お分かりですね?
ぼくは、ミラちゃんです。笑
これだけ、こっそりここに記しておきます。
仏果を得ず、ぜひどうぞ!!!!
ちなみに、仏果を得ず以外でぼくの好きな三浦しをんさんの小説は
ののはな通信
と
舟を編む
です。