映画『罪の余白』
2015年公開。監督・脚本は大塚祐吉。
原作は、芦沢央「罪の余白」。

【キャスト】
安藤聡/内野聖陽
木場咲 /吉本実憂
安藤加奈/吉田美佳子
新海真帆/宇野愛海
小沢早苗/谷村美月
高山満/加藤雅也

【ストーリー】
女子高に通う
安藤加奈は、ベランダから転落し命を落としてしまう

彼女は、
女子高のカーストの中でトップに君臨する木場咲(吉本実憂)
に憧れる友人グループの一人だった。

加奈を男手一つで育ててきた安藤聡(内野聖陽)
は自責の念にかられており娘の死は事故だったと信じていた。

ところが、死の真相を探ろうとする聡の前に咲が立ちはだかり……。

安藤聡が一つ一つ区切られた水槽の中のベタという魚を娘の加奈と見つめる美しくて印象深い冒頭の場面キラキラ
ベタは、もともとオスが縄張りを持ち縄張り内に入る魚に対して威嚇、攻撃する性格がある。
だから、同じオスとは同じ水槽では生きられず、仕切りの入った一つの水槽で一匹だけで生きている。

このベタこそが、性別を女にし、水槽を女子高の教室に変えて考えれば、

被害者である安藤聡の娘・加奈であり、木場咲の取り巻きの一人の真帆であり、
そして加害者である木場咲そのものでもあると思う。

水槽=教室(左から真帆、加奈)

咲の心理的操作により、
水槽から追い出された加奈

加奈を威嚇して追い出した咲

威嚇して追い出した咲の内面が現れているのが
芸能事務所のマネージャーの高山と話す場面なので後に綴るが、
まずは主人公である安藤聡について。

聡が心理学者なのに最後の最後まで咲に苦しめられたのは、
心理学者としてではなく、
娘を殺された父親として咲と向き合っていたからだと思う。

娘の死亡前は、心理学の教授として教壇に立っていた聡

しかし!! 

最愛の娘亡き後は……下矢印
咲の挑発に簡単に乗り、
復讐の鬼となり怒りに任せて
を殴り警察でしぼられてしまうアセアセ

一方の咲は傷口を気にしてふてぶてとしている。

聡と年齢の近い男性である高山も、
家に帰ればもしかしたら女子高生のパパだったりするのかもしれないけど、

当然だが、
高山とは仕事の顔だけで完全に接しているので、特別な意識もなく
とは逆にを追い詰めることに成功している。

芸能事務所の人間なんて一発で人を見抜くプロだから、「映画しかやりたくない、人生に友達や彼氏は必要ない」と言った咲の生き方や人間としての浅さ、未熟さを一気に見抜いた。

咲「人生を賭けるぐらいの価値のあるものだと思うから映画をやりたい」
高山「じゃあ君は映画と同じくらい価値のある人間か?」

は黙り込み、
瞳には涙が浮かんでしまっている。

最後にはアシスタントの女性に、
「自分は弱い人間だと思う」
「必要として頂ければ…」とへりくだったほど。

弱さを認めた後の咲は、
もう抑えることもなく涙を流し続けていた。

咲が悔しそうに唇を噛み締め涙を堪えている姿、誰かに評価されるでもない計算のない涙を流しているところは非常に安心したぐすん

彼女は、頭がいいと作中で言われているし大人びた容姿だが、
やっぱりまだ子どもだということが分かったから。

けれど、この状況下で「弱い人間だと思う。」と自分を客観視した発言を素直に言えるということは、やはり彼女の芯は強いし、冷酷な面が今は彼女の多くをしめているが魅力的な人物に映る。

それは、演じている吉本実憂さんの外見や雰囲気を私が好きだからというのもあるがラブ

話を戻して、冒頭のベタ(魚)の話に関連づけられると思うのだが、
アシスタント女性に「今一番何が欲しいか」と聞かれた時の咲の答えに注目。

間髪入れずに自由だった。

自由…こう答えたということは、
咲は自由気ままな女王様ではなく、
他の級友と同様に、
窮屈な教室の中で本当は息苦しさを強いられていたと言えよう。

加奈を追い詰めることが、彼女が生き抜く為に必要な事となってしまった?
…とてつもなく悲しいことだえーん

アシスタント女性に最後、
「好きな映画は何か」と聞かれた咲。
答えるシーンはなかったけれど、答えられたのだろうか。真顔

映画だけに出演したい、何番手でも、どんなに小さな役でもいいから映画だけに、という言い方は傲慢だけど、そこまで言った彼女は映画に救われたことがあるのでは?目

咲が安藤加奈をターゲットにしたのは、
将来、女優になりたいという秘密を彼女にだけ話したからだと思う。

咲の中では「夢」ではなく、
あくまでも、
着手しつつある「計画」の一つだったのに、

「すご〜い。 
夢があるなんていいなあ!」
のよう漠然とした加奈の返しの言葉から、

咲は目の前の目標が、
やはり遠いものだと突きつけられたというか、
勝手に馬鹿にされたような気になったのでは。

(勿論、ごく普通の反応であるし、加奈は素直に咲なら出来る気がする、とも言っていたのだけど。)
それは、

「夢、じゃないんだよね。」
という咲の言葉や、
落胆した表情から見てとれる。

勿論、加奈は悪くなく、
咲が、弱い人間であるから。タラー

目的達成への自信が本当はなく、弱みを握られた感じにすら思った?

そして、

映像的に驚かされるのマンションでの、
のベランダでの対決のクライマックスシーン!!!

これは、
ならば「録音されていると嫌だからベランダで…」
と言い出すことを予想したの捨て身の策略
と捉えることが出来ると思う。

からスマホを奪おうと襲いかってきた咲は、
マスコミに電話でバラされると思っていた。

しかし、

聡はカメラをに向け動画の録画ボタンをスタートさせていたから、
に襲いかかられた時点で、
時力で落下しようとしていたのだと思う。
そうすれば、
を傷害事件の加害者に出来るから

勿論、被害者は聡自身。
既に失うものがなくなったものの、捨て身の姿は恐ろしいびっくり何でも出来るポーンメラメラ

聡は階下で、
早苗が車をバックさせている音を聞いていて、
(呼び出したのか、来る事を察知していたのかは不明だが)
半分、余裕を持って手摺に持たれたかかっていたように思う。
早苗が駐車が下手で、必ずぶつける(音がする=それがサインになる)ということを彼は同じ職場で知っていたし。


咲は聡を助走をつけて思い切り突き飛ばしたが、普通に考えれば手すりの高さからしても、
咲のような細腕の10代女子が、
大の大人を真下に落とせるとは思えないので、
やはり半分は自分の力で、自作自演で落下した可能性が高いのではないか…。

車の上に無事に落ちることができたら死ぬ確率は低くくなる…

どんなに重傷になっても、
を有罪したかった
の執念だったのではないかと思う。

いじめの件は、日記の記録があるとはいえ立証することは困難だと思うので、
別件で裁判に持ち込もうとしたと考えられる。

ここで、やっと聡は心理学者としての一面を咲に対して使えた、ということになる。

最愛の娘を亡くした安藤聡。
失うものがないものは実に大胆になれるのだガーン

ファーストシーン(教室)

ラストシーン(拘置所か少年院?)

聡に敗北したが、全く眼力が失われていない咲。
彼女の真の闘いはこれから?真顔

内容は暗いけど、学校のすぐ近くに海があったり、キリスト教の学校ゆえにキャンドルが美しかったり、聡の部屋の中に鮮やかな青い魚(ベタ)が泳いでいる水槽があったりと、画的に癒やされる作品でもある。

また、時間は短いが、ピアニストの清塚信也さんが文化祭の場面でピアノを弾いていらしたり、内野聖陽さんの教室内での暴走をとめる、といった貴重なお芝居シーンもあります♪