天抜きの作法って……? | 食べて飲んで唄って笑って

食べて飲んで唄って笑って

45を越えた自由人の思いつきで始めたブログです。「食」と「釣り」を主なテーマに綴っております。もしよろしければご笑覧下さい。

賛否両論あろうが、蕎麦屋は酒を飲むところである。「蕎麦前」という言葉があるように、せいろなりかけなりを手繰る前に、粋な肴で一杯やるのが蕎麦屋での楽しみ方である。しかし、そこには様々な暗黙のルールがある。否、個々人が暗黙のルールを作り出している。別に「通」を気取りたいわけではないのだが、蕎麦屋で酒を飲む場合、「かくあるべき」という、各人の蕎麦屋酒の理想像に則り、粛々と行動を起こしている人が多いように思う。かくいう私もその一人である。

久々に都内に出たので、以前よく通った蕎麦屋に立ち寄る。凄惨な火災から復帰し、店構えも新たになった、あの蕎麦屋である。語尾に独特のイントネーションがある、あの蕎麦屋である。
昼下がりということもあって、店内にお客はまばらである。「蕎麦屋の大風呂敷」なんて言葉はどこ吹く風、店員さんは笑顔で親切に対応してくれる。さて、何を頼もうか……。
いつもならば、かまぼこか焼き海苔でお燗をつけてもらうのだが、何せ今日は風が冷たい。ちょいと早めに熱いものを取り入れたい。何か温かいものはないか……。ふむふむ、焼き鳥かな、それとも鴨焼きにしようかな。あるいは、かけそばで酒をやるのも悪くないな。うーん、迷うな。そんな折、「これだ!」と思う品が入った。

そう、「抜き」である。寒い季節なら、「鴨抜き」か「天抜き」だろうが、この日は後者に食指が動いた。熱々の出汁に小ぶりのかき揚げ。汁に浸したり崩したりしながら、酒を飲む。熱いつまみと燗酒という、えも言われぬ組み合わせ。口の中が、歓喜の出会いに湧いている。

すっかり体が暖まったら、最後はやはりせいろでしめる。なぜだろう。あれだけ温かいものを欲しがっていたのに、外に出る直前に、また冷たいそばを手繰りたくなるのは。まぁ、しかし、せいろには蕎麦湯が付き物である。本当のしめは、この蕎麦湯かもしれぬ。
こいつでほどよく暖まったら、「う~、さぶい、さぶい」と言いながら外に出るのもまた、情緒があっていいのではあるまいか。