久々に都内に出たので、以前よく通った蕎麦屋に立ち寄る。凄惨な火災から復帰し、店構えも新たになった、あの蕎麦屋である。語尾に独特のイントネーションがある、あの蕎麦屋である。
昼下がりということもあって、店内にお客はまばらである。「蕎麦屋の大風呂敷」なんて言葉はどこ吹く風、店員さんは笑顔で親切に対応してくれる。さて、何を頼もうか……。
いつもならば、かまぼこか焼き海苔でお燗をつけてもらうのだが、何せ今日は風が冷たい。ちょいと早めに熱いものを取り入れたい。何か温かいものはないか……。ふむふむ、焼き鳥かな、それとも鴨焼きにしようかな。あるいは、かけそばで酒をやるのも悪くないな。うーん、迷うな。そんな折、「これだ!」と思う品が入った。
すっかり体が暖まったら、最後はやはりせいろでしめる。なぜだろう。あれだけ温かいものを欲しがっていたのに、外に出る直前に、また冷たいそばを手繰りたくなるのは。まぁ、しかし、せいろには蕎麦湯が付き物である。本当のしめは、この蕎麦湯かもしれぬ。
こいつでほどよく暖まったら、「う~、さぶい、さぶい」と言いながら外に出るのもまた、情緒があっていいのではあるまいか。