順番前後しましたが

第2話です。


             オタク仮面  

           第2話 馬の嘶き



 「知ってる?ジョアナ。マルタがゾンビーに襲われたって。」


 「うん、夕べ電話で直接聞いた。蝿の化け物も出たって・・・」


馬の世話をしながら、同僚のイザベルと話すジョアナ。


 「変なのが現れて、全部退治してくれたらしいんだけど、

  マルタの車までマシンガンで撃ちまくってスクラップに

  しちゃったんだって。」


  「ひどいわよねえ。助けてくれるのはありがたいけど、

  もっとスマートにできないのかしら。」


 「ほんと、どこの馬鹿なんだろ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ジョアナが、いったん家に帰り、弓道の練習へ行く準備を

していると、携帯がなった。さっきまで話していたイザベルからだ。


 「ジョアナ、馬の様子が変なの。すぐ来て!」


 「え、さっき何ともなかったのに・・・わかった。すぐ行く。」


 厩舎へ戻ると、入口にイザベルが倒れている。かけよって

抱き起こすが、気を失っている。


 「しっかりして!イザベル!!」


 肩を揺すっても意識が戻らない。奥からは馬が暴れて

鳴いているのが聞こえる。ジョアナはイザベルを飼葉の上に

寝かせると、奥へと急いだ。 

 すると、馬を囲んでゾンビーたちがうじゃうじゃ・・・ 

その中で、馬の頭をした大男が馬にちょっかい出している。


 「何やってんのよ!あんたら!!」


 「ヒヒーン、邪魔するなよ。俺の嫁さんにするんだから。

  ヒヒーン、ゾンビーども!やっちまいな!!」


 馬男が嫌がる雌馬に頬ずりしながらそう命じると、

ゾンビーたちはジョアナに向かってきた。

  
  「なめんじゃないわよ!」  ビシッ!  「あれ?」


 勇敢にも、ゾンビーに蹴りを入れるがまったく効かない。

やがてゾンビー達にじわじわ囲まれ、逃げ場を失う・・・ 

ジョアナ絶体絶命! と、

  たとえ 火の中 水の中 草の中 森の中 ・・・

 ポケモンのOPが聞こえてきた。・・・やつか?


  「ゾンビー、ゲットだぜ!!」


厩舎の入口からさす光の中に浮かぶシルエット。両手を腰に当て

仁王立ち。しかしどこか貧弱だ。


  「貴様か。出来損ないのくせに完成 改造人間の

   蝿男を倒すとはたいしたもんだ。だが、俺はそんなに

   柔じゃねえぜ。」


  「確かに貴様らに中途半端な改造をされたが、

   俺は自らをさらに改造し、オタクパワーを自在に

   操れるようになったのだ。お前たちの科学力より 

   俺のオタクパワーのほうが優れていることを

   見せてやる。」


  腰のホルダーからCDを取り出し、バックルに入れる。


  「変身!パックマン、スタート!!」


 光の中で、黄色い巨大な球体へと変わっていき、 

巨大パックマンが現れた。


 パク、パク、パク、パク・・・ 


そのまま次々にゾンビーを吞み込んでいく。

脇でそれを見ていたジョアナも、


 「マジ?」


 「な、なんじゃこりゃあー・・・」


 どんどんゾンビーたちが吞み込まれ減っていくのを

目の当たりにしてあせる馬男。


 「くそー、そんなレトロなキャラクターにやられてたまるか!」


 「そういうあんたもミノタウロスの馬版。かなりレトロじゃん・・・」


 小声で突っ込むジョアナ。それを聞いた馬男は怒り、

ジョアナに詰め寄る。


  「なんだとー、この小娘が!」

  
 ジョアナを助けようと馬男の後ろから迫るオタク・パックマン。

それに気づいた馬男は体も馬に変え、後ろ足で蹴り飛ばす。

窓を突き破り外へ放り出される黄色いボール。

 地面に叩きつけられた反動で、バックルからCDが飛び出し

変身が解除されてしまった。


  「ふん、所詮俺様の敵ではないわ!

  止めを刺してやる。」


 馬男は元の半馬半人の姿に戻りオタク仮面を追って

表へ出る。やっと立ち上がったオタク仮面に向かって猛ダッシュ! 

オタク仮面はよろけながらも新しいCDを取り出し

バックルに挿入した。


  「変身!戦国無双、スタート!」


 今度は甲冑の武者姿、手には大薙刀を持っている。 

迫り来る馬男を、脇構えで待ち受ける。

再び全身馬の姿になり、襲いかかる馬男。

すかさず逆袈裟に切り上げるオタク武者。  


  ズバッ!
 

 「ウグッ・・・」  


つーっと首から一筋の血が流れ地面に落ちる。


  「そ、そんな馬鹿な・・・」


そのまま首は切り口に沿って滑り落ちた。  


 ドサッ・・・

 それを背中で聞きながらオタク武者は、しばし

切り上げた姿勢のままポーズを極め、勝利の余韻に

浸っている。


  「俺、かなりかっこよくね?」


心の中でそうつぶやいた瞬間、 ガブッ!

 
 「んごっ! いってええええええええ!

  なんだあ?」


振り返ると馬男の顔。

死んだはずの馬男の頭が飛んできて、オタク武者の

尻に噛み付いたのだ。


  「くそっ、離れろ!死に損ない!!」


必死に薙刀の柄で馬の頭を突くが、馬男は白目を

剥きながらも放さない。

 そこへ、馬の糞をさらうためのスコップを

持ったジョアナが後ろから近づき、


 「しつこいんだよ、おめー!」  


 ボカッ!!


 思い切りり馬男の頭を引っ叩いた。


 「ホゲッ・・・」


 馬男はオタク武者の尻から落ち、ついに息絶えた。


  「ありがとう、ジョアナ」


  「え、何で私の名前知ってるの?」


 「あ、い、いや、その・・・ 

  あ、さっき君の同僚から聞いたんだよ。」


 「だったら何でイザベルが気を失ってるのよ。

  ちゃんと助けなさいよ!」


  「え、あ、う・・・んー・・・」

  
オタク仮面が答えに窮していると、

正気を取り戻したイザベルがふらふらとやってきた。


  「ジョアナ・・・」


  「イザベル、大丈夫?」


オタク仮面は急いで武者姿から貧弱ヒーローの姿に戻ると、

キャリーカートからローラースケートを取り出しはき始めた。


 「ちょっと、待ちなさいよ!あんた誰なのよ?」


  「ヒーローは正体を知られちゃいけないんだ・・・」


そう言うと、噛まれた尻を擦りつつ、オタク仮面は

へっぴり腰でカートに引かれて去って行くのであった。



                     続く・・・







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