悪人 | 日本酒バー開店日記~日本酒BARあさくらat京都~

悪人

悪人/吉田 修一
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「アンタ、大切な人はおるね?」
「その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人たい」
   ・
   ・
   ・
「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。
大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。
自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。
失うものもなければ、欲しいものもない。
だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、
失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。
そうじゃなかとよ。
本当はそれじゃ駄目とよ」


この作品の中で一番印象に残った台詞です。


「悪人」


かなり印象的なタイトルです。
吉田修一といえば芥川賞受賞作のパークライフのイメージが強く、
それが何だか最近のことのように思えてまだ新人に近い感じの若い作家、
というイメージを持っていたのですが
芥川賞を受賞したのは2002年でもう6年も前のことなんですね。
う~ん、時間感覚が・・・(^^;

さて、この小説、舞台は福岡、長崎、佐賀です。
県境で若い女性の遺体が発見され一月の初旬にその犯人が捕まった、
という記述で物語は始まり、
徐々に事件の全容が明らかになっていきます。
最初に犯人が示されていることからも分かるように、
殺人事件がテーマではあるものの、
よくあるような犯人探しの推理ものという感じの話ではありません。
被害者、加害者、そして周囲の人物が丹念に書き込まれ、
単純に殺人事件を描いているだけではなく、
孤独や現代の人間関係の希薄さ
という点にも踏み込んだ内容になっています。
悪人というタイトルからして、
犯人がいかにひどい悪人であるかを描いた物語なのかな、
そして連続殺人へと発展していくのかなと思っていましたが、
読み進むうちにこう思うようになりました。


「悪人とは一体誰のことなのか?」


犯人の祐一は確かに罪を犯した。
だが、彼は本当に悪人なのだろうか?
徐々に明らかになっていく祐一の人となり。
そこに「悪人」というイメージを重ねるのは難しい。
むしろ犯人以外の事件に関わりのある人達の悪意に読者は目を向けていくことになるでしょう。
悪人とは誰なのか。
人のつながりとは。
何だか色々と考えさせられました。


400ページを超える分厚い本ですが物語にグッと引き込まれ、
サクサク読み進めることができて長さは感じませんでした。
吉田修一。
いい書き手です。
これからの作品にも期待です。