先日、気になっていた一本をようやく開けることができた。
「風の森 奈々露657」。
日本酒好きの間でもまだ新しいラインナップとして話題になっているこのお酒、名前からして心を掴まれる。
■ 油長酒造という蔵について
「風の森」シリーズを醸すのは、奈良県御所市に蔵を構える油長酒造株式会社。
享保4年(1719年)、油屋から酒造業に転じて以来、300年を超える歴史を持つ老舗蔵元である。
「酒造りを通じ100年先に美しい日本を伝える」という理念のもと、古典的な技法と現代の技術を組み合わせた独自のスタイルを追求し続けている。
代表銘柄「風の森」は、奈良の地酒ファンならずとも全国の日本酒好きに広く知られる存在。
無濾過無加水のフレッシュな味わいが特徴で、毎年新しいラインナップが発売されるたびに話題を集める。
長年の酒飲みだが、これだけ毎回ワクワクさせてくれる蔵元もそうそうない。
■ 「奈々露」という新しい酒造好適米
今回の主役は、なんと言っても「奈々露」という酒米だ。
2024年に奈良県で初めて開発された酒造好適米で、「露葉風」の血を引く品種。
露葉風といえば奈良を代表する酒米として知られているが、その系統から生まれた奈々露は、奈良盆地の気候風土に特化した栽培特性を持ち、心白が非常に大きいのが特徴だという。
心白が大きいということは、それだけ澱粉質が豊富で、お酒の旨みに繋がりやすい。
日本酒の醸造適性が非常に高い米とのことで、酒蔵にとっても使いがいのある原料なのだろう。
また、収穫された奈々露の稲穂は、大神神社と菩提山正暦寺でそれぞれ御祈祷を受けるという。
大神神社は酒の神様として知られ、正暦寺は日本清酒発祥の地とも言われる場所。
んな神聖な場所で祈りを受けた米から醸されるお酒というだけで、何か特別な気持ちになってくる。
歳を重ねるにつれ、こういう背景や由来を知ることで、一層杯が進むようになったと感じる。
■ スペック
・使用米:奈良県産奈々露100%
・精米歩合:65%
・アルコール度数:15度
・製法:無濾過無加水生酒
・容量:720ml
精米歩合65%は、油長酒造の定番ラインナップ「秋津穂657」と同じ設計。蔵として最も醸造実績のある磨き方で、この新しい酒米を仕上げたということになる。
アルコール度数15度はやや控えめで、飲みやすさにも配慮されている印象だ。
■ 実際に飲んでみた
グラスに注ぐと、澄んだ液体のなかにかすかな深みを感じる色合い。
無濾過らしいわずかな濃厚感がある。
まず香りは、フローラルというか、華やかで柔らかい印象。
蔵元が「フローラルな香り」と表現するのはまさにそのとおりで、花を思わせるような芳香が漂ってくる。
口に入れた瞬間、甘さと吟醸香がふわっと広がった。
この最初のアタックは結構印象的で、「あ、これは面白いな」と思わず心が動く瞬間だ。ひと通り口内で甘みと香りが広がった後、今度は酸味がすっときて、ぎゅっと味を引き締める。
この流れが非常に心地よい。
全体的に結構しっかりしたお味で、口当たりは軽やかながらも飲み応えがある。
一杯でも十分に満足感が得られる系統のお酒だと思う。なお、風の森シリーズはフレッシュ感や微発泡感で知られることもあるが、今回は炭酸は感じられなかった。
その分、より落ち着いた印象で、じっくりと向き合いたい一本だ。
■ 合わせたい料理
甘みと酸がバランスよく、かつしっかりした旨みがあるので、和食全般との相性が良いと思う。
特に、淡白な白身魚の刺身や、塩気のある魚の西京焼きなどと合わせると、お酒の甘みがより際立ちそうだ。
豆腐料理や湯豆腐との組み合わせも良さそう。
酸の締まりがさっぱりとした後口を生み出すので、脂の乗った料理と合わせるのも面白いかもしれない。
■ 所感
「風の森 奈々露657」は、奈良という土地と深く繋がった一本だと感じた。
新しい酒米・奈々露の可能性を、油長酒造が丁寧に引き出している。それが口の中で広がる甘みとフローラルな香り、そして酸の余韻となって伝わってくる。
日本酒の奥深さを改めて感じさせてくれる一本。ぜひ一度手に取ってみてほしい。
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