美味しくて楽しい酒―熟成古酒 195

Ⅰ 世界の醸造酒の熟成

② 穀物の酒の熟成

腐りやすいぶどうを長く置くことができなワインの場合は、収穫したぶどうをすぐワインに変えて貯蔵するため、1年間以上の貯蔵は当たり前として行わなければならないので、「腐らせない貯蔵の方法を考えだし、長期間の熟成がワインを一層美味しくすることを知る」までには、それほど長い時間は掛らなかったと思われます

 

一方、穀物を原料とする日本酒や紹興酒などは、穀物のままなら何年間も貯蔵はできますが、酒にするとすぐに腐るので、酒は必要なときに、必要な量だけ造られてきました。

中国の前漢時代(紀元前200~紀元元年)に、「礼には作法が多くて、夜明けから始めて夕刻になっても終わらないので、いざ酒宴になって酒を飲もうとしたときは、すでに腐って酸っぱくなっている。」と、形式ばかりの礼を皮肉った言葉があったほど、酒は腐りやすいものであったのです。

 

娘が生まれた時に醸す酒

ところが、4世紀初頭の晋代に広東地方の物産・風俗などが書かれた「南方草木状」という本には、この地方の風習として「女の子が生まれると、酒を醸し、甕に詰めて密封し、冬に池の水が涸れるのを待って池の中にうずめる。春になって池に水が溜まってもそのまま放置し、その娘が嫁に行くとき池から甕を掘り出し、その酒で祝宴を行う。これを女酒といい、その味は絶品である。」と書かれていることから、中国では千五,六百年も昔から、何らかの目的を持って、酒を甕に入れて10年以上も貯蔵していたことが分かります。

 

かねてから、「中国ではなぜ腐りやすい酒を、あえて、何年間も貯蔵しようという発想が生まれたのか?」という疑問を持っていましたが、最近、花井 四郎さんの「黄土に生まれた酒」(東方書店)の中で、これが黄河の氾濫と関係があることを思わせる文書を見つけました。

                                                 つづく