美味しくて楽しい酒―熟成古酒:63

ワインのようですね

 

吟醸酒がブームになり始めたころ、試飲会などで吟醸酒を勧めると、決まったように「ワインのようですね」といわれ、戸惑うことがよくありました。私たちの感覚では、ワインと吟醸酒はそれほど似ているとは思っていなかったので、初めのころは「吟醸酒は香りがよく、ワインに比べると酸が少なくて飲みやすい、・・・・。」などと、ワインとの違いを一生懸命説明したものですが、それを何度も経験する内にその「ワインのよう・・・」という言葉の意味が段々分かってきました。

 

大学生の飲酒実態調査

そのころニッカウヰスキー(株)が首都圏、関西圏の学生を対象に行った「大学生の飲酒実態調査」は、当時の学生たちの飲酒に対する実態がよく分る貴重な資料です。

その中の酒類のイメージ調査の項目では

〇 清酒 :「しみじみ飲む」「酒好きの人が飲む」「男性向き」となり、

〇 ワイン :「ロマンチックな雰囲気」「女性向」と

まったく対照的な結果です。

当時の学生たちのイメージは、日本酒は「酔う酒」であり、ワインは「雰囲気を演出する酒」ということですが、一般の人たちのイメージもこれに近かったと思われ、「ワインのようですね」という言葉には、「これは酔っ払うために飲む酒ではない」というメッセージが込められていたのです。

甘くて濃い、飲み応えのある酒が好まれていた当時の日本酒は、進歩的文化人と称する人たちから「甘ったるくて飲めねぇ」などとこきおろされながらも、相変わらずブドウ糖などを大量にぶち込んだ甘い酒を造り続けていたので、こんな酒というよりも、こんな酒を飲んだ酔っいを

見慣れていた人達には、吟醸酒という酒が日本酒とは思えない、スマートで素敵な酒に見えたのです。