古代の酒造りでは、仕込みに使う水を非常に大切にし、清冽で夏でも枯れることのない湧水、流水などを利用しました。

浄水技術が発達した現代では、多少その水質が良くなくとも、目に見える異物はもちろん、例えば、酒造りに害となる鉄などの重金属類なども、簡単に取り除くことができます。

しかし、自然の水をそのまま使った古代の酒造りでは、その水源の確保が重要な問題であったのは当然です。


今も各地に残る地名にそのいわれを知ることができます。

常陸国風土記

  にいばりのこおり       は                                                  にいばり

○ 新治郡 :井戸を治り開いたら、清らかな水がこんこんと流れ出た→ 新治

  なめかたのこおり あがた かみ  もり

○ 行方郡 : 県の祇の杜の中に冷たい水の湧き出る泉がある → 大井 


播磨国風土記

   いぼのこおり                すがふ    ほむだ

○ 揖保郡 : 上岡の里の菅生山へ品太天皇が巡行された時、この地に掘ら

  れた井戸から湧き出る水が清冽であったので「水が清く冷たいので、吾が

     すが  すが                           すがふ

  心は宗我宗我しい」と仰せられた → 宗我富

   いぼのこおり   ほむだ               いわみ

○ 揖保郡 : 品太天皇の御世、石海の里に宮をつくり、井戸を掘って酒殿を

   建てた → 酒井野


丹後国風土記(逸文)

○ 天女が霊酒を醸した → 真奈井


その他 

みわがわ           さけのいずみ           さかみず             さかどのいずみ きい

神川(仁淀川) ・ 酒泉(印南郡) ・ 酒水(大分郡) ・ 酒殿泉(基肄郡)・

ささのみい

佐々御井(賀毛郡)  


古代の人々が酒造りに使う水を地名にまでして、いかに大切にしていたかが

良く分かりますが、これらの水は酒造りだけではなく、生活用水としても欠かせない物として、水が枯れたり汚染されることを防ぐため、その水源付近を霊地として、人が入ったり、安易な開発が行われないように厳しく守ってきたのです。