風土記に見る庶民の宴(うたげ)

8世紀ごろに編纂された「風土記」は、古老の伝承を中心として、各地に伝わっていた古代の人々の風俗習慣を知る、貴重な民族史、地誌です。

出雲国風土記に書かれた「うたげ」の様子を見ると


○ 意宇郡の忌部の神戸の条

「忌部の里にある玉造川のほとりの、海も山も見渡せる風光明美な場所に温泉がわき出ている。その所をめざし、街道や小路から、また海辺の砂浜に沿って、老若男女が続々と集まってくる。

まるで市が立ったように集まってきた人々は、温泉に浸かって体を清めた後、入り乱れて酒宴を楽しんでいる。」


○ 嶋根郡の邑美の冷水の条

「東と西と北は険しい山に囲まれ、南は広々と海が広がっている。中央の小石を敷いた潟には泉がさらさらと流れている。

この場所に、男も女も、老いも若きも四季折々に集まってきて、常に酒宴を楽しむ」


○ 嶋根郡の前原の埼の条

「風光明美な場所に男女が集まり、宴を充分楽しんで家路につく。中には遊びふけって帰ることを忘れる者もいる。」


この3か所の「うたげ」の様子を見ると

1、 いずれも風光が明美な磯、山、あるいは温泉がわき出ている所

2、 ある一定の季節に行われている

3、 どの「うたげ」も、酒や食べ物を持ち寄り、大いに飲み、歌い、踊って

   一日を楽しく過ごす

と、同じパターンで行われていることが分かります。


その他の風土記でも同様のことが描かれており、古代の農民たちも結構上手に、楽しみ、息抜きをしていたことが分かります。


また、歌垣などの収穫祭の「うたげ」では、神が認めた男女の性的な交渉の場であり、貴重な機会でもあったそうです。