3、 自然を畏れ、神を祀る
⑥ 森林を育てる

安定して大量の水を確保するために、先人たちは水源を求め、延々とその水を水田にまで引いてくる用水路を築くなど、大土木事業を行いました。

ところが、火山列島ともいわれる日本の急峻な地形は、梅雨や台風による大雨で洪水や土砂崩れなどを引き起こす反面、少し日照りが続くとたちまち水不足を引き起こすなど、土木技術のハードだけで水を確保し、それをコントロールすることは、人の力の限界を超えています。


「古事記」による、神話の世界の素戔嗚尊(スサノオノミコト)は大蛇退治で知られていますが、その同じ素戔嗚尊が「日本書紀」では植林の神として登場しています。

このことから、古事記で語られる八岐大蛇(ヤマタノオロチ)は、土地の人々を悩ましていた斐伊川の洪水のことで、大蛇退治はその暴れ川を治めたことを意味するとされています。

そして、植林の神でもある素戔嗚尊が、その川の上流付近一帯に植林をしたことで、しょっちゅう洪水を引き起していた、斐伊川の洪水が無くなったという話へとつながるのです。

つまり、

            水田稲作を取り入れた日本人は、

        神話のころから植林をして、森を育てていたのです。



    古(いにしえ)の 人の植えけむ杉が枝に 霞たなびく 春は来ぬらし

(昔の人が植えたという杉の枝に、霞がたなびいている、春になったようだ)


これは万葉集の巻10-1814の中に、柿本人麻呂の「春の雑歌」として載せられている歌です。

7世紀から8世紀にかけて編纂された万葉集の中に、「古の人が植えた杉」と表現されていることからも、その頃にはすでに、植林さた立派な杉林が有ったことが分かります。


僕たちは、日本は緑あふれる「森の国」と、当たり前のように思っていますが、

実は2000年もの昔から、先人たちが営々と続けてくれた植林のおかげであることを、もっと認識しなければなりません。