愛佳side
ねぇ辛いよ……
「はぁ、はぁ、はぁ。」
肩で息をして呼吸を整えようとしてもなかなか落着かない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
さっきのことを思い出してまた息をするのが苦しくなる。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『愛佳、今日どうしたの。
私のこと…嫌いになったの?』
「え…。」
『最近ずっと私のこと避けてたでしょ?
嫌いなら嫌いって言って。怒らないから!』
「いや、嫌いじゃな…。」
『無理しなくていいよ、
私も愛佳に無理させたくないから…。
じゃあね、愛佳。ばいばい!』
「ま、待って、理佐あぁぁ!」
理佐は私に微笑んだ後逃げるように走って行ってしまった。
私には分かる、その笑顔は無理して口を釣り上がらせたものだということが。
ちょっと待ってよ、私、理佐のこと大好きなのに!!
慌てて理佐を追いかける。
理佐の姿がどんどん遠くなっていく…
でもその時
「あ。これでいいのかも。」
そう呟いて足を止めた。
だって、もうこれ以上理佐を傷付けずに済むから。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
理佐の最後の微笑みを思い出す。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
私はいつも理佐を傷付けてる。
理佐のことが大好きだから失うのが怖いんだ。
失ったら私はきっと立ち直れない。
「好き」と言う回数が増えて行く程、「別れ」が怖くなっていく。
だからもう理佐に「好き」なんて言えないと思った。
だから避けた。
理佐と一緒に居るのは最小限にしようと決心した。
それが理佐を傷付けた。
それに私は多分、1つの更なる最低な気持ちを持っていたんだと思う。
私に避けられて悲しい顔をする理佐を、見たかったんだと思う。
私が居ないとだめなんだってこと、
思い知らせたかった。
失いたくないから、私の前から消えてほしくないから。
でも違うメンバーと喋ってる理佐をちらっと見たら、特に悲しい顔はしていなかったし楽しそうだった。
だから私は傷付いて、意地になって理佐を避け続けた。
これで何度目だろう、
最後の微笑みをまた思い出す。
あの微笑みは無理をしていたように感じたけど、
私の勘違いなのかも。
例えば
…あれ?愛佳といるよりねると一緒にいる方が楽しいなぁ。最近避けられてるし、もう別れた方が丁度いいかな。でももし愛佳がまだ私のこと好きなら可哀想だから、愛佳に無理させたくないって言う理由で別れようかな。
とか思ってるかも。
そういえばその時理佐に好きって言われてないし…。
あ、結構ありえそう。
いや考え過ぎかな。
理佐、もう私のこと好きじゃないのかな…
だったらもう生きる意味なんかない。
また理佐という1つの大切なものを失ってしまった。
どうせ生きてたって何かを傷付けて何かを失うだけ。
きっと私がいない方が理佐は幸せなんだ…
ポケットからスマホを取り出してLINEを開く。
“ 理佐、私なんかと付き合ってくれてありがとう。傷付けてごめんね。私は理佐をもう苦しめたくないから理佐の前から消えるつもり。
もしまだ好きで居てくれてるなら勝手に消えてごめんね。でもどうか分かって欲しい。これが理佐にできる唯一のお返しなの。 …………………
私の思いを全てここに打ち明けた。
このLINEは理佐に届くだろうか?
これを見て理佐は何を思うんだろう。
分かんない、分かんないけど
なんだか伝えた方がいい気がした。
よし、私の最後の場所に行こう。
苦しい時、いつも行く場所。
そして、理佐との思い出の場所。
その場所に向かいながらふと空を見た。
透き通るような綺麗な水色。
その上に小さな白い綿菓子がぱらぱらと散りばめられている。
私がこの世から消えることを空は歓迎しているのだろうか?
私が消えた後もいつも通り人々の上には空がある。
私が消えたって何も変わらないんだろうな。
古いボロボロになったビルの前で止まる。
カンッ、カンッ、カンッ。
ゆっくり、ゆっくり錆びた階段を登る。
その時頭に浮かんだのは理佐との思い出。
なかなか振りが覚えられなくて講師の方に怒られて理佐に泣きついたことあったなぁ。
大丈夫大丈夫とか、一緒に練習しようとか、色々優しい言葉を掛けてくれて、頭を撫でてくれたっけ。
理佐に大丈夫って言われるとなんだかすごく安心するんだよね。
そんな優しい理佐に私はなんかしてあげられたのかな。
いつの間にか屋上に着いていた。
そこで深呼吸をする。
「すぅー、はぁー。」
これで誰かを苦しめることもなくなるし、苦しめて自分も苦しくなってボロボロになることももう無い。
飛び降りる理由は
何年も前から消えたいって思ってたから。
楽になりたかった。
ただ理佐に嫌われたからっていう理由じゃない。
まぁそれが決意に繋がったけど。
「ふぅ。」
飛び降りる決心をした。
決心なんてすぐ出来た。
ずっと自分はいなくなるべき人間だと思っていたから。
何で生きてるのか、日々自分に問い掛けてた。
でも答えなんて分かんないし生きてる価値なんてきっと私にはないんだと思っていた。
明日を懸命に生きようしてる人がいる。
どんなに辛い環境にいても、どんなに思い病気に掛かっても自分のために、誰かのために頑張って明日を掴もうとしている人がいる。
真っ白な病室でまだ見ぬ空を待ち望む人がいる。
なぜ神様は私じゃなくてそんな人たちを病気に掛けたの?
私なんかより生きる価値のある人に
私の命をあげたい。
手を広げる。
もう一度深呼吸をして、、目を瞑る。
さよなら、世界。
さよなら、理佐。
さよなら、私を愛してくれた人々。
さよなら、みん
『愛佳ああああ!!!』
り、さ……?
勢い良くグイッと手を引っ張られ、気づいたら理佐の腕の中にいた。
『愛佳っ、やめてよっ……。』
「………。」
何が起こっているのか、分からなかった。
『自殺なんて、しないでよっっ…!』
「………」
『馬鹿っ!!!
愛佳がいなくなったら私はっ、私は!!どうやって生きていけばいいの!?うぅっ』
「な、なんでここに…いる、の?」
『愛佳が落ち着く場所だって言って紹介してくれたでしょ!!悲しくなったら来るんだって…。その日から2人で何回も帰りにここに寄るようになって…愛佳と星を見上げたり、雑談したり思い出が詰まった大切な場所だから。絶対ここに愛佳がいるって、思ったの…。』
泣きながら必死に私に言葉を掛けてくれる理佐。
それに答えようと、私も必死になって重たい口を開けて言葉を出そうとした。
「わ、私は、生きてたら何かを…傷付けちゃう!
!はぁ、はぁ、もう理佐を傷付けたくないのっ!!!
それにもう、理佐は私のこと…好きじゃ、なくなったでしょ?」
『は?愛佳は馬鹿なの!?
愛佳のこと大好きに決まってんじゃん!!
避けられたのが悲しくて本当は家に帰って泣いてたんだよ!?』
「う、うそ!!ごめん…….。
やっぱり私は理佐を傷付けることしかできないんだ。やっぱり私は消えるべきなんだ!!」
『何言ってんの!!?愛佳、私を傷付けたくないんでしょ?だったら死なないでよ!
愛佳が死んだらもっともっと辛いし、多分笑えなくなる。』
「理佐…。」
『ねぇ愛佳。なんで避けたの?』
「好きって言えば言う程理佐のことをどんどん好きなって言って怖かったの!!!
理佐が私の前から消えた時が、怖くて…。
だから好きって言えなくなって、あんまり会わないようにした。」
『私は愛佳の前から消えたりしないから。』
「でも、でもっ!!」
『あのね、私も愛佳のことを失うのが怖いの。
だけどね、そんなの怖がってて愛佳との時間が奪われて行くほうが怖い。分かる?』
「うん…。」
『だからね、これから不安なことがあったらお互いに言っていこう?2人で向き合っていけばずっと一緒に居れるはず。』
「…でも理佐、本当に私でいいの?」
弱々しく震えた声で言う私に理佐はこう言った。
『愛佳じゃないとだめなの。
だから勝手にいなくなったりしないで。』
「うぅっ、ぐすっ。理佐あああ!!」
嬉しくて安心して申し訳なくて理佐が大好きすぎてなんだか変な気持ちになってさっきよりもぎゅっと強く抱きしめた。
そしたら、理佐は
「私はここにいるよ。」
と言って、強く抱きしめ返してくれた。
もうどこにも行かない。
そして、もうどこにも行かせない。
空はどうやら私達を歓迎していたみたい。
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