【wonkyu day2020】(ウォンキュ)
【蜜月】(83)
【会話】(ウォンキュ)
【会話】
この人と会話をする時は口許か、手を見るのが癖になっている。
いつからだったかはもう覚えていない。何故なら
……目を合わせたらお終いな気がしたから。
あの真っ直ぐで嘘のない視線で見られたら、この心の奥底に沈めた感情を即座に引き上げられてしまいそうだから。
だから、この人とふたりきりで話をする時はどんな表情をしていたかはあまり記憶に無い。よく動く口と、軽く組まれた指先か、コーヒーカップを持つ仕草。そんな所ばかりはよく覚えている。
そして、
「キュヒョナ」
「……なんですか?」
つい、と綺麗な指先が自分に向かってくるのに気付くのに少し遅れて、指先が此方の唇の横に触れた。
「付いてる」
ふは、と微笑みながら其処を撫でて、茶色の破片が付着した指先を見せてくる。
食べていたドーナツのチョコレートの破片を拭ってくれたらしい。
「こどもみたいだな」
「……、」
何と答えるべきか迷って、視線を手元のドーナツと皿に向けたまま口の中に入ったままのドーナツを取り敢えず咀嚼する。食べながら喋るのは行儀が悪いから。
「かわいい」
思わずあげた視線が、ばちっと合わさった。
かわいい、って。
にこにこしながら頬杖をついてドーナツを食べる男を見てるけど、何がそんなに楽しいのか。
口の中のものを飲み込んでからアイスティーをひとくち飲む。
「……可愛くなんか無いですよ」
「俺には可愛く見えるんだよ」
そう、微笑む唇がコーヒーカップに隠れる。
もうおしまいかもしれない。
だって、ほら。
手よりも口許よりも。
真っ直ぐに此方を見る視線からもう眼が離せない。
「ねえ、キュヒョナ」
コーヒーカップをソーサーに戻して軽く組まれる。その綺麗な指先が此方に伸ばされる理由はもう無さそうだ。
ドーナツはもう食べ切った。
アイスティーはあとひとくち残ってるけど。
今度は何を云い出すつもりなのか。
かわいい、じゃなくて。
そうじゃなくて。
それ以外のもっと云うべき台詞があるんじゃない?
ほら、
好き、って云ってよ。
そしたら、もうおしまいにする。
自分も嘘のないこの沈ませたままの感情を曝け出す覚悟を決めるから。
「 」
(了)

