塩ひとつまみの感性 | こーひーの丁寧なハナシ

こーひーの丁寧なハナシ

さかもとこーひーおゆみ池本店の
週刊こーひーコラムです。

テーマ:

 

こんにちは。6月に入り雨模様の天気が続いています。本格的な夏の訪れと共に、今年も1年の半分が過ぎようとしています。

 

さて第102回の今回は「塩ひとつまみの感性」と題し、料理のレシピでよく見かける「塩ひとつまみ」という表現について書いていきたいと思います。

 

先日Twitterのタイムラインに料理研究家の土井善晴先生のツイートが流れてきました。

 

「これくらいでええんです」 「塩するときは、ちゃんと手にとって目ーで見て、これくらいかなー」と思うことが大事でなんです。『それが一番難しい』いう人あるけど、やったらええやん。次やるときはうまくいくかも。だんだんできるようになる。料理はいい感性トレーニングや思いませんか。悟性を磨け

 

土井先生の家庭料理に関する考え方には共感する事がとても多く、見栄えの良い料理、豪華な料理、品数の多い料理、毎日の献立のバリエーションなど、家庭でもちゃんとしっかり作るのが最良という風潮を、「こんなんでええんですわ」「日々の料理で頑張ることないんですわ」「家庭料理では美味すぎないことも大事」と、料理はもっと肩の力を抜いて考えていいんだと思えるようになりました。

 

そんな土井先生のこのツイート。

 

様々なレシピで「塩少々」とか「塩ひとつまみ」という表現をよく見かけます。

 

確かに「豚バラ肉〜グラム」「玉ねぎ大1個」「醤油大さじ1」といった表記に比べると、とても曖昧でアバウトな表現です。

 

特に料理に苦手意識がある人からは「【塩少々】【塩ひとつまみ】がわからない」「何グラムなのか数字で教えて欲しい」という話を聞きます。

 

その感覚的な分量を何度も仮説検証する事で、自分の中で美味しく感じる丁度良い「塩ひとつまみ」の基準を作るのが大切と仰っています。

 

「そのアバウトさを数値化すれば誰でも同じ味付けになるのでは?」という質問に対してはこう答えています。

 

数字は基準になる定数があって、正確な数値が得られます。ですから、日常生活では前提条件が作れないので、同じ味付けにはなりません。再現不可能。また常に変化する時間を考慮すると数字では捉えられません。数値を度外視しようとしなくとも、変化をおもしろいと感じるのは身体能力と哲学による。

 

確かに言われてみると、料理において正確に数値化できる食材は殆どありません。

 

同じ豚バラ肉200gでも脂と赤身の比率も違いますし、品種の違いもあります。他の食材も個体差や旬での味の違いが当然のようにあります。

 

そこにさらに調理時間という不定に変化し続ける軸が加わるので、「塩ひとつまみ」を数値化したところで、再現性には殆ど影響がないと言えます。

 

それよりも、自分が「こういう味付けにしたい」「こういう味が美味しいと思う」という味付けのゴールを設定した上で「あと塩ひとつまみ欲しいな」というような感覚的な微調整をするのが、結果的に料理の再現性を高めるのではないかと思います。

 

工程やレシピ、数値は、あくまでも最終的な味わいを再現するための手段であり、それを決定するのは味覚という感性であり、その感性を、日々の「塩ひとつまみ(仮説)」と「味見(検証)」で磨いていくのが大切なんだと思いました。

 

そして家庭で淹れるコーヒーもそうですが、あまり毎回完璧に同じ味にする事に囚われずに、「今日はちょっと濃いな」「ちょっと薄いな」「今日のは丁度良いな」と、多少のブレも楽しむような心持ちでいると無理なく気楽に続けられるかと思います。

 

2023年6月11日

坂本壮太