KAZEの旅人
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深日港からフェリーに自転車を積んで淡路島に渡った




フェリーの甲板で見た空に星はなく、
暑い雲に覆われていた‥

国道26号線を走っていた時は
星が瞬いていたのに‥






雨を覚悟‥案の定、
港に着船したときには完全に降りだしていた。






自転車をフェリー乗場の軒下に置いて
待合室で停滞した。

雨さえ降っていなければ
淡路島を一周するつもりだったが、

往路で体力を消耗し雨の中を走る気力は
残っていなかった。






でも、生まれて初めての淡路島上陸が、フェリー
の待合室だけで終わると言うのも情けない‥






それに、深夜にうどんを食べてから
何も口にしていないので既に空腹だ‥

幸い折畳みの傘を持ってきていたので食べ物探し
を兼ねて付近の集落を散策してみることにした。






防波堤沿いを北にむかって歩いた‥






しかし、雨に霞む風景の中に 
民家が点在するだけで他に何もない。

食事が出来る場所なんてありそうもなかった‥

でも、更に歩くと、
民家の軒先にそのまま雑貨や食品などを置いた
ような商店がかろうじてあったので、

とりあえず入ってみる。






「こんにちは‥」






‥少し間があいて‥ガサッと‥
奥の方から誰か出て来る気配がした。

「はい」と出てきたのはまさに老婆‥と
呼んでいいような老夫人だったが、

僕の顔を見て何とも言えない笑顔を見せて
「けんじかい?」と言った。






けんじ?子供の名前かな?と思って
「僕はけんじ君ではないです」と言ったら‥






老夫人はとても悲しそうな表情で
「違うの?ごめんなさい‥」と言い‥

そして「‥何かいるのかしら?」と言った。

「お腹が空いたのでお湯が頂ければ、
カップラーメンが欲しいんですが‥」

「ああ‥お湯ね‥ちょっと待っててね」
と言い残して老夫人は奥に入って行った。






僕は購入するつもりのカップラーメンと
ソーセージを持ったまま、老夫人待った‥






待った‥






しかし、待てど暮らせど出て来る気配はない‥






「すいませーん」声をかけてみる‥

すると‥「けんじかい」






僕は気味悪くなって買うつもりだった
商品を置いて逃げてしまった。






今考えれば、
あの老夫人は認知症だったのかも知れないが、

当時は、僕がそのけんじ君を連れて帰って
いたような錯覚に陥っていた‥

漠然とけんじ君は
亡くなっているような気がしていた‥






でも、そのままフェリー乗場まで戻ってしまい、
散策も止めてしまったので、真実は闇の中だ。






寒気がする‥
空の色も一層不気味に思える。






こんな心理状況の時は柳も幽霊に見えるのだろう






食欲よりも気味の悪さが先に立ち、
待合室にあった缶コーヒーでお腹を満たし我慢‥






やがて、帰路のフェリーが出港‥

雨が降っていても、
とうぜんデッキに出て海を眺めるわけだが、






その前に‥

つい‥

洗面所に‥






引き寄せられるように入ってしまった。






扉を開けて中に入る通路に大きな鏡があって、
そこの、自分の顔が映るべき部分に‥

見覚えのない男性の顔が映っていて
卒倒しそうになった‥






が、よく見ると先客がいて
彼の顔が映っていただけだ‥






彼は、驚いた表情の僕を怪訝そうに一瞥したが
興味なさそうに出て行こうとした‥

なのに‥

出口のところでハッとしたように立ち止まって
振り返った。







その表情は‥






ぼく自身の顔だった‥

そう‥彼は鏡の中に消えた‥
‥ように見えた。






嫌な気配を払拭するようにフェリーの汽笛が響き、
我に返る‥






その後、淡路島にはバイクでは二度ほど訪れ、
島内を走り回ったが、






自転車でのリベンジはまだ出来ていない‥