それらしき建物が見当たらない‥
ぼくは京都の大原で途方に暮れた。
道を尋ねたいが、付近に人の気配はない‥
やむなく当てずっぽうに歩いていたら
大原三千院と書いた標識がある場所に出た。
標識のある場所がちょっとしたスペースに
なっていて、
そこに四周の窓を全開にしてエンジンを停めた
タクシーが停まっていたので、
助け船とばかりに思わず声をかけた‥
「あのー、すいません」返答がない‥
やばい‥寝てるのか!?と、
起こさないようにそっと行こうとした‥
その時‥「ん!?」と声がしてタクシーの中で
大きく伸びをする姿が見えた。
やばい、休んでいるのを起こしちゃったか‥
「お休みのところすいません」
タクシーの中の初老の男性は
眠そうに目を擦りながら「何?」
「大原のユースホステルを探しているんですが‥」
「バスで来たの?」
「はい‥」
「大原のバス停で降りたんでしょ?」
「はい‥」
「目の前だよ」
「あ‥」
「乗りな!どうせあっち方面に帰るから!」
「でも‥」
「大丈夫だ、ユースの旅人から金が取れるとは
思ってないよ!」
「では遠慮なく‥」
走り出したタクシーの中でも
少しばかり会話を交わした。
「うちの息子も旅が好きだったんだ‥」
「そうなんですか!!」
「もっとも現在は所帯を持って
落ち着いてるけど」
「結婚して家庭を持ったら
ぼくも落ち着きますかね?」
「それは本人次第だ」
「ごもっとも‥」
「旅をしていた頃、あちこちでお世話になった
みたいだから、これも恩返しのひとつかな」
「ありがとうございます‥助かります」
大原バス停にぼくを降ろすと、
タクシーの運転手さんは
ろくにお礼も言わせないまま、
京都方面へ走り去った‥
