(駅の名前を言ってしまうと
場所を特定出来るので避けますが)
某駅前にあるバス停がこれまた素晴らしい環境で
引戸を閉めるとトイレと水道付きで
更に電気まである個室となった‥
これは寝られる‥と喜んでいたら、
駅員さんがやって来た‥
「ごめん、バスが終わったら鍵を掛けるので」
その初老の駅員さんは
申し訳なさそうにそう言った‥
「そうなんですか‥」
僕は慌てて、広げていた荷物をフレームザックに
収納し始めた‥
その様子を眺めながら駅員さんが話しかけてきた
「どちらから?」
「ずっと旅をしているんです」
「ずっと?」
「住んでた札幌のアパートを引き払って、
日本を縦横無尽に縦断しながら
九州を目指しているんです」
駅員さんは目を白黒させながら
「すごいですね」と言って‥
「もし良ければ駅舎の待合室で
お休みになりませんか」と続けた‥
「いいんですか?
それは願ってもないことなんですが」
「どうせ自分が宿直なのでどうにでもなるから」
「ありがとうございます」
「その代わり‥」
「はい?」
「旅のハナシを聞かせてよ」
お安い御用です‥と言ったか言わないか、
それに似たような言葉は使ったと思う‥
「先ずは旅の垢を流してよ」
駅舎にあるシャワーまで使わせて頂いて、
食事もお互いの持ち寄りで、
駅員さんの愛妻弁当や買ってきたお総菜と、
僕が作ったラーメンをシェアして美味しく頂いた‥
食後、
ガスコンロで沸かしたお湯でコーヒーを
淹れながらずっと話をしたが、
お喋りの好きな駅員さんで、奥さんのことや、
子供さんのことを延々と話してくれるのだが、
さて、寝ようと2つのベンチを合わせて
寝袋を広げながらふと気付いた‥
旅の話をしていなかった笑笑
翌朝、
忙しそうにしている駅員さんに
「ありがとうございました‥助かりました」
「また、来ることがあれば駅舎を訪ねなよ」
「行きます」
「駅長はいるか、
と聞いてくれればすぐにわかるから」
駅長と言われて驚いた
「駅長さんだったんですか!?」
「宿直をやる駅長なんてそんなに
大したもんじゃないけど」
「いえいえ、お見それしました」
僕は何度も頭を下げて駅舎を後にして、
鍵のあいたバス停のベンチに腰掛けた‥
バスが来るにはまだ早いから
軽く朝食でも作ろうと思った。
その時‥
「おはようございます」
ふいに声を掛けられて頭を上げると、
声の主は初老の女性だった‥
一瞬、何か迷惑になることをやったかな‥
と、思い返したが、
どうにも思い当たらない‥
とりあえず「おはようございます」と、
同じ言葉で差し障りのない返答をしてみた。
すると‥
「昨夜からここにおられたのは
見ていたんだけど」
「ご迷惑でしたか?」
「違うの、夜中だったからあなたの人となりが
全然わからなくて」
「はい?」
「どんな人か分からないから怖くて‥」
「ご迷惑をおかけしました」
「違うの‥そう言うことじゃなくて‥
ちょっと待っててね」
女性はそう言い残すと、
バス停の前の家に入って行った‥
そして、
「これ食べてね」と言って焼いた
二枚のトーストと野菜サラダにゆで卵、
それに飲み物が入ったポットまで
持ってきてくれて‥
「どんな人か分かっていたらお夜食も
届けられたのに」と言った‥
僕は駅舎に招かれた経緯を話した。
「駅長さんね!いい人だったでしょう」
「はい、ご家族を大切にされているのが
よく分かりました」
僕のその言葉を聞いて女性は嬉しそうに、
じゃあね、と家の中へ入って行った‥
朝食を美味しく頂いて、
さて、
そろそろ出発しないと、
バスの始発時間になってしまう‥
僕はバス停のベンチを片付けザックを整理し、
前のお宅にお礼を兼ねてポットを
お返しに伺った‥
「ごちそうさまでした」
女性はポットを受け取りながら
「もう行っちゃうの?」
「バスが来ますから‥」
「あらもうそんな時間」女性はそう言ったあと
「ちょっと待っててね」と奥へ入って行き、
「これ差し入れね」と、何か包みを渡された‥
一瞬何を渡されたのか分からなかった‥
女性ははにかんだ笑顔で「お弁当‥」
そして「お口に合わないかも知れないけど‥」
「とんでもない‥ありがとうございます」
その心遣いが嬉しかった‥
「また、こっちへ来たら寄ってね!」
「はい、いろいろお世話になりました」
玄関で見送ってくれた初老の女性と
母親がだぶってしまい、
何度も振り返り、頭を下げた‥
そして‥
昼頃まで歩き続けたので、
疲れると同時に空腹で前後不明に
なりそうだった笑笑
海沿いの遊歩道を歩き、
途中の展望所のベンチに座り、
頂いたお弁当を広げた。
美味しい‥
でも、
霞んで見えない。
お弁当も、
風景も‥
僕は嬉々として目を擦りながら、
ゴチソウサマ
