第 四 章 コ リ ン ト 人 の 恋 -9-
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
恥ずかしそうにうつむいたままの直樹 。
沈黙・・・。
エッチ系のお願い・・・って、一体なんだろう・・・。
俺、 ” 返事はOK ” って言っちゃってる 。
直樹の希望に副いたいって思ったんだけど、まさかエッチ系で来るとは・・・。
・・・あいや、俺、調子に乗って早まったか・・・?
だけど、そもそも、・・・ ” エッチ系 ” と、 ” お願い ” って、ちょっとそぐわない気がするけど 。
たいてい・・・、つきあって、自然に、そういう気分、そういう関係になるんだよな、多分 。
まあ、男がリードすると思う 。
で、俺たちは・・・。 ふたりとも男だ 。
だけどふたりとも、恋愛経験ゼロで、セックスも未経験 。
・・・直樹も俺も、とてもリード出来るようなレベルじゃないよな 。
せいぜい、お互いを思いやりながら歩み寄るのがベストか・・・。
ああそうか、直樹のお願いっていうのも、先へ進みたいってことだとは限らないんだ・・・。
・・・先ずはちゃんと聞いてみないと 。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
「 うん、いいよ、勿論 。 って言うか、喜んで、OK、OK 」
『 あっ・・・フー、良かった~ !! 僕、言葉にした途端、すっごい恥ずかしくて 』
「 俺も 。 ・・・恥ずかし嬉し、って、そんなフレーズあったよね、確か 」
『 エ~ !? ハズカシ・ウレシ、ですか ? ホントだ、ぴったりです、僕も 』
「 で、俺、何をすればいいの ?」
『 あ~、はい 。 ・・・あの、ここじゃ無理です 。 あとで・・・ 』
「 そっか、それはそうだよね、うん、わかった 」
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
「 じゃあ、その・・・、そろそろ、行く ?」
『 あ、はい、 そうですね 』
良介は、しのに礼を言い、カウンター席にはお先にと挨拶した 。
常連さんたちが、騒がしくてごめんなさいね、と良介に詫びる 。
先に店を出て、車で一服しながら直樹を待つ 。
・・・エッチ系の頼みって、なんだろう 。
俺も、直樹のきれいな頬に触りたい・・・。 思う存分、抱き締めたい・・・。
これも、エッチ系なのか?
直樹は若いし、直樹の言うエッチ系って、当然、俺とは違うんだろうな 。
『 待たせてすみません 』
「 ” 直樹ちゃん ” 、引き留められたんだ 」
『 はい 。 母さんを潮干狩りに連れて来るって、約束しちゃいました 』
「 潮干狩りに ?」
『 はい 。 ここ、ハマグリとか獲れるんで 。 良介さん、さっきの展望所に、またいいですか ? 』
「 うん、わかった 」
さっき下って来た道を上る 。
良介の気持ちもだいぶ落ち着いてきた 。
いろんな事、わからない事、難しい事、これからはふたりで決めよう 。
直樹と俺で決めればいいんだ 。
『 良介さん 』
「 ん ?」
『 公園で初めて話した時、ホントは僕、良介さんを待ちぶせしてたんですよ 』
「 えっ !! 俺を待ちぶせ ?」
『 はい 』
「 待ちぶせって・・・」
『 ・・・僕、実はあの4カ月くらい前から、スーパーで良介さんを時々見かけてて、カッコいい人だな~って 』
「 4カ月前・・・去年の今頃とか・・・」
『 で、良介さんとレジの人のやり取りを聞いたり、あと、良介さんがいろんな人に親切にするのを見たりして、僕、良介さんに憧れて、その、好きになったんです 』
「 ・・・・・・・・・」
『 でも、知り合えるきっかけとか全然なくって 。 そしたら、良介さんがスタンドの前を通るようになったんで、公園でならチャンスがあるかもって 。 あの日が待ちぶせ2日目でした 』
「 うわ~。 俺、全然知らなかった 」
『 フフフ・・・ 』
俺、あの時、待ちぶせされてたのか・・・。
俺が直樹にひとめ惚れするもっと前に、直樹は俺を好きになってたって・・・。
「 俺ね、公園のことははっきり覚えてる 。 あの日は土曜日でさ 」
『 そうです、そうです 』
「 実はその1週間前の土曜日にね、直樹がお年寄りにタクシーを停めてあげてるところに通りかかってさ、若いのに偉いなあって 。 俺、その、・・・直樹にひとめ惚れしちゃった 」
『 ひとめ惚れ・・・ ? 』
「 うん 。 それでね、直樹を見たくてさ、仕事帰りにスタンドの前を通るようにしたんだよね 」
『 わ~、知らなかった・・・。 僕がタクシーを停めてあげて・・・ 』
直樹の待ちぶせ・俺のひとめ惚れ・・・。
これって、・・・告白大会か・・・。
なんとなく、気持ちが軽くなったな・・・。
そうか、それじゃあ、あの事も、今がいいよな・・・。
「 あと、直樹、俺さ・・・ 」
『 はい 』
「 その、直樹がさ、・・・上原藩の、・・・若様だってこともね、・・・知ってる・・・ 」
『 あっ・・・ 』
「 ブラス部の真美に、ずっと剣道やってた弟君がいてね、でもその子、県大会とかで直樹には一度も勝てなくて、いっつも準優勝だったって 。 ・・・それでさ 」
『 ・・・そうだったんですか 』
「 うん 。 俺、それ聞いて、直樹の、いろんな習い事とか、上品さとか、なるほどって納得してた 」
『 あ~、良介さん、僕、その、隠してたわけではないんですけど、・・・いや、・・・やっぱり、黙ってて、すみませんでした、・・・ごめんなさい 』
「 あ、違う違う、そんなことないから 。 俺こそ、知ってるのに知らないふりしてて、なんか後ろめたくって・・・ 」
『 いえ、そんな 』
「 お互いの思いもわかったから、ちょうどいいかなって思ってさ 」
『 はい、ありがとうございます 。 良介さん、やっぱり大人だし、やさしい 』
「 いやいやいやいや、どうしたらいいのかわかんなくて、ズルズル先延ばしにしてただけだってば 」
展望所に着いた 。
さっきと同様、車も人の気配も無い 。