第 四 章 コ リ ン ト 人 の 恋 -2-
直樹の黒い大きなセダン車に続いて停車した良介 。
ハア~・・・。
・・・直樹、・・・元気そうだ 。
やっと、やっと・・・、やっと逢えた !!
直樹が俺の車に気付いたんだ 。 もしも、少しでもタイミングがズレていたら、逢えないところだったな・・・。
・・・フー、・・・良かった 。 ホントに良かった 。
それにしても、驚いたな 。 すごい高級車だ 。
直樹は運転してなかった・・・。 運転してるの、誰なんだろう・・・。
あれっ !? そう言えば・・・、直樹、「 良介さん !! 」 って言ったぞ 。
うわっ、初めてだ 。 これまではずっと、” 榊さん ” って呼んでくれてたから 。
あっ、俺も、『 直樹 』って言った・・・。 ずっと ” 原峰くん ” だったのにな・・・。 さっきはとっさに 『 直樹 』 って言っちゃった・・・。 きっと、
いつも心の中で直樹、直樹って呼びかけていたからだ 。
ってことは、・・・直樹も俺のことを良介さんって呼んでたのかな・・・。
えーっと、この状況って、・・・なに待ちなんだ?
俺、降りて行くべきなのか? それとも待ってるのがいいのか?
直樹の指示に従って付いて来たんだから・・・、このまま待ってるのが良さそうだ 。
他にも同乗者が居るかもしれないし、直樹の予定や段取りもあるだろうし・・・。
・・・こうして逢えたんだから、もう焦る必要はないさ 。
しばらく待っていると、良介の携帯が鳴った 。 直樹からだ 。
エッ 、この距離で ? ・・・一体、どうした ?
直樹の用件は・・・。
足がフラつきそうだから、良介の肩につかまらせて欲しい、と・・・。
ひょっとして直樹、・・・酔ってる ? それで運転出来ないのか?
状況がよくわからないまま、言われたとおりに直樹の車に向かう 。
運転していたらしい男性が降りて来て、後部のドアを開け、良介を待っている 。
「 初めまして、沼田晃一です 。 社長、歩けないそうで、よろしくお願いします 」
『 初めまして、榊良介です 。 こちらこそ、よろしくお願いします 』
良介から顔をそらすようにうつむいて、笑っている直樹 。 恥ずかしそうな様子で、前の座席の背もたれやドアに手をかけて降りようと試みる 。 這うような恰好だ 。
良介はドアのそばにしゃがみ込んで、直樹に肩を貸し、腕を回して直樹を支えた 。
『 これでどう ? 』
「 あ、いけそうです 」
『 それじゃあ、せ~ので、ゆっくり立ち上がろうか 。 無理しちゃダメだよ 』
「 はい 」
沼田が手をかざして、直樹の頭をガードする 。
『 せ~の !! 』
良介に支えられて立ち上がった直樹 。
沼田が素早く動いて、良介の車の助手席のドアを開けた 。
良介に抱えられるようにしてゆっくり歩き、助手席に両手をついて、慎重に着席する直樹 。
安堵したような笑顔で、沼田に向かって言った 。
「 フ~、ありがとう 。 今日はもう、時間が来たら、いいからね 。 お疲れ様 」
沼田は直樹にブリーフケースを渡し、ふたりに向かって、お疲れさまです、失礼しますと挨拶すると、セダンを運転して帰った 。
良介と直樹 。 ふたりきりだ 。
『 ・・・・・・・・・ 』
「 ・・・フ~・・・・・・ 」
『 どう ? 大丈夫 ? 』
「 ありがとうございました 。 ・・・アハハ・・・大丈夫 ・・・です 」
背もたれを少し倒しながら直樹が言った 。
「 フ~・・・。 ああ、夢みたいだ 。 良介さんに逢えるなんて・・・ 」
『 うん、俺も 』
「 いきなりでびっくりしちゃって・・・、嬉しくって・・・。 そしたら僕、全身の力が、・・・腰が、抜けちゃったんです・・・。 ・・・恥ずかしいなあ 」
・・・( えっ !? 腰が抜けた ? )
・・・( 俺に逢えたのが嬉しくて ? )
良介は、胸がいっぱいになってしまい、言葉に詰まった 。
聞きたいことも話したいこともたくさんあるのに・・・。
『 ・・・えっと・・・・・・ 』 何から聞こうか・・・。
「 はい・・・ 」
『 お父さん、大変だったね、・・・それで、今は・・・』
「 あ、はい 。 心臓だったんですけど、発見が早かったこともあって、安静にしていれば差し当たっては心配ないみたいです」
『 ・・・そう 。 ・・・でも、まだ、・・・いろいろ落ち着かないよね、きっと 』
「 ・・・良介さん、・・・僕、・・・その、連絡しないですみませんでした 。 ごめんなさい 」
『 えっ、・・・いやいや、そんな、俺のことなんかいいさ 。 気にしないで 。 それに、・・・こうやって逢えたんだし 』
「 ・・・・・・・・・ 」
『 このあと、時間いいの ?』
「 あ、はい 。 今日の予定は終わりました 」
『 じゃあ、ちょっと走ろうか・・・ って言っても、俺、詳しくないけど 。 ・・・どこか・・・』
「 今降りて来た丘の裏っかわに行きましょうか 。 展望所があるんです 」
『 わかった 。 引き返せばいいんだね ?』
直樹はそれには答えず、ギアレバーを操作する良介の左手に自分の右手を重ねた 。
『 ・・・・・・・・・ 』
「 こうやって良介さんに逢えるなんて・・・ 」
つぶやくように言って、重ねた右手に力を込める直樹 。
『 ・・・・・・・・・ 』
直樹の手の温もりが伝わって来る 。
それとともに良介は、自分の胸の内に抗えないほどの強烈な思いが湧きたつのをひしひしと感じた 。
・・・ようやく逢えた直樹 。
それで、俺に逢えたのが嬉しくて、腰を抜かしただなんて・・・。
・・・俺に・・・、俺に逢えたのが嬉しくて・・・!!
相変わらず、俺なんかの想定外だな 。
相変わらず、ピュアで、素直で、・・・・・・愛しい・・・。
・・・俺、・・・俺、今日こそは・・・、全てをさらけ出そう・・・。
そう決心する良介 。