第 四 章    コ リ ン ト 人 の 恋  -1-

 

 

年が明け、早いもので1月も下旬になった 。

 

良介は上原市一帯の探索を続けている 。

相変わらず、直樹の姿どころか、なんの手がかりもつかめないままだ 。

10リットルずつ給油するスタンドも、2巡目、3巡目の店舗が出て来た 。

 

・・・この方法でいいのかな ? ・・・結果を出せるのか ?

わからないけど、もうしばらく続けてみよう 。

直樹は上原にいるのだから、スタンド以外の場所でばったり出逢う可能性だって、ないとは言えない 。

少なくとも、マンションで独りボーっとしているよりはずっとマシだ 。

 

 

土曜日と日曜日に朝から出掛け、昼食は ” 波の音 ” で取る 。

そして夕方、再び ” 波の音 ” に寄る 。

 

 

たいてい、いつもの席が空いていた 。

【 オレンジ色の入江 】 の写真を見ながら、波の音を聴いて過ごすひととき 。

クラシック音楽が流れていることもある 。

ママさんの好みなのか、ロマン派あたりの、美しいメロディーのものが多かった 。

交響曲まではいかない、セレナーデなど、少人数編成の器楽曲 。

波の音と同じように、静かで、耳にやさしく、心地良い 。

 

カウンター席は常連客らしき人達で埋まっていることが多かった 。

男性客、女性客、独り客、2~3人の連れ・・・、様々だが、どの客も声高なおしゃべりは控えて、ママさんを相手にくつろいでいる 。

店と同様、常連のお客さん達もステキな人ばっかりだ 。 良介はそう思っている 。

 

大きな窓から砂浜を見渡す 。

それほど広くはない渚は、白い砂がきれいで、訪れる人が結構多い 。

車で来る家族連れや若い子たちのグループ、散歩と思われるお年寄り、・・・老若男女様々だ 。

 

 

おっ !!

大型の、ジープみたいな車、その後部座席から、男性と大きな犬が降り立った 。

 

わ~、ボルゾイ犬だ !!

 

ボルゾイ犬・・・。 実物を見ることはめったにない 。

目を凝らす良介・・・ 。

 

 

 

良介の親友・タケの家族は、全員が犬好きで、常に3~4頭の犬を飼っていた 。

良介は小学3年生の時、タケの家のビーグル犬が産んだ子犬を貰った 。

妹の洋子と、よく世話をして可愛がった 。 元気で利口でやんちゃなビーグル犬 。 

家族みんなに愛されて、良介が大学を卒業するまで生き、いろんな思い出を残してくれた 。

 

タケはよく、良介にボルゾイ犬の写真やビデオを見せては、いつかボルゾイ犬を飼いたいと言っていた 。 貴族的な風貌のボルゾイ犬について、タケからいろいろと教わった良介 。 明るくて楽しいキャラのタケと、静かで落ち着いたボルゾイ犬の組合わせが、良介には納得いくようないかないような、そんな感じだった 。

 

 

そのボルゾイ犬が今、砂浜に居る 。

気品に満ちた風貌 。 長くて美しい巻き毛が風に揺れている 。

男性に連れられ、波打ち際へ向かってゆっくりと優雅に歩いて行く 。

遠目には、男性とボルゾイ犬が、まるで穏やかに言葉を交わしているかのように見える 。

やがて車へ戻って来た 。

 

気付いたら車のそばに、ママさんが立っていた 。 紙袋をふたつ抱えている 。

ボルゾイ犬がちょっとだけ早足になり、ママさんに寄って来る 。

ママさんは、ボルゾイ犬の顎のあたりを撫でると、紙袋のひとつを男性に渡し、話をしている 。

 

・・・知り合いなんだ・・・。

 

男性とボルゾイ犬が車に乗り込む 。

運転手の男性にも紙袋を手渡すママさん 。

車は静かに発進して、ゆっくり去って行った 。

 

 

・・・まるで映画のワンシーンのようだった 。

あの男性と、ここのママさんの関係は ?

ボルゾイ犬もママさんになついてるようだった 。

見るからに高そうな車 。 ・・・運転手は別に居た 。

そもそもあの男性はどういう人なんだろうか・・・。

 

・・・いろいろと想像してみたが、良介にはわからなかった 。

良介の人生や環境を尺度に考えると、極めて非日常的な光景に思えたのだ 。

・・・だが、あの男性、ママさん、運転手、それにボルゾイ犬にとっても、それはごく普通の行為に過ぎないように見えた 。 いつものことだし、きっと、明日以降も繰り返されるに違いない 。

 

・・・世の中、いろいろだなあ~、って・・・、この場合、変かな ?

でもこれが、俺の正直な感想だ 。

そして、この店のいろんなこと、ロケーションや雰囲気、コーヒーの味に至るまで、全部、アリだ 。

今の光景だって、アリだ 。 馴染みのないことだったけど、俺、あの男性や運転手さん、それにボルゾイ犬とも仲良くなれる気がする 。 仲良くなりたいなって思う 。

 

・・・うん、・・・俺の神経、大丈夫、まだまだOKだな・・・。

 

さてと、それじゃあ、午後の部へ出発しようか 。

 

 

 

ホテルや旅館が点在する丘へ行ってみた 。

ゴルフ場もあって、リゾート地の趣が感じられる 。

丘から市街地へ下る途中のスタンドで給油したが・・・残念、収獲なし 。

 

スタンドから出ようとして、安全確認をする良介 。

黒い大きなセダンが近づいて来た 。 と思ったら、その車は徐々にスピードを落とし、だがスタンドに入る様子はなく、良介の進路をふさぐような位置に停まった 。 よく手入れされた立派な車で、例えば市長とか警察署長とかを乗せてるのかなと想像する良介 。

でも変な停め方だなあ・・・。 これじゃあ出にくいな、バックして切り返すか・・・。

 

その時、セダン車の後部の窓が開き、そして・・・。

 

「 良介さん !! 」 

 

それは、紛れもなく、直樹だった 。

 

( エッ !?  直樹 ? ・・・直樹だ !!

 

『 直樹 !!

 

そう叫んだ良介に向かって、直樹は前方を指さし、微笑んだ 。

良介も微笑んで頷く 。

 

直樹の車がゆっくり走り出し、30メートルほど進んで停まった 。

 

良介も、直樹の車に続いて停める 。