第 三 章    君 は  五 月 の 風  -11-

 

あの人を手に入れるぞ !!

 

初めての恋に闘志満々の直樹 。

あのジェントルマンをゲットすることにまっしぐら、よそ見なんかしない 。

 

・・・・・・。

とは言っても・・・。

・・・どうする ?  どうしたらいい ?

どうやればあの人を僕のものにできるんだ ?

 

手っ取り早く、待ち伏せして、あなたが好きです、お願いします、どうか僕とお付き合いしてください、って正直に頼む ?

それはいくらなんでも唐突過ぎるな 。 知らない相手からいきなりそんなモーションを掛けられたら、誰だってドン引きするに決まってる 。 僕、変な奴なんです、って言ってるようなもんだ 。

 

・・・じゃあ、知ってる相手からの告白なら、いいのか ? つまり、先ずは知り合いになれってこと ? ・・・でも、どうしたらあの人と知り合える ?

待ち伏せして、僕、あなたとお知り合いになりたいです、って言うのか ?

・・・なんだそれ、結局、待ち伏せじゃないか 。 ドン引き、パートツー、じゃん 。

ダメだ、 ダメだ、 待ち伏せから離れろ、待ち伏せはナシだ 。

 

待ち伏せはナシ 。 コトは自然に運ぶのがいい 。

知り合って、徐々に仲良くなって、そのあと、頃合いを見て、コクる 。

つまり、最初の関門は、知り合うってことだ 。 しかも自然に 。

 

知り合うっ、て言っても・・・それはそれで、難しいな・・・。

 

これが剣道の試合だったら、合図とともに始まるんだけどなあ 。 僕だけがいくらアピールモードに入ったって、あの人は僕のことなんか気にはしていないんだから、何も始まらない 。

だったら、どうすれば僕に気付いてもらえる ?

何か、いい方法、ないかな 。 傾向と対策、みたいな 。

 

傾向と対策か・・・。

剣道で決勝の対戦相手とかだったら・・・、ある程度のデータがあったし、相手の得意技や弱点を把握して、試合に臨んでた 。 準備万端にってことだ 。

そうか、あの人の得意技や弱点を把握するのもひとつの手かも・・・。

だけど、名前さえも知らないのに、そんなのわかるわけないな 。

 

ダメだ、焦ったっていい考えは浮かばない 。

落ち着け、落ち着け 。 剣道も忘れろ 。

 

・・・とりあえず、僕が知ってる、あの人のデータでやるしかない・・・。

整理してみよう・・・。  それで、そこにアピールする・・・。

えーっと、背が高いってこと 。 ・・・これは使えないな、却下 。

コーヒー好き 。 ・・・おっ、これはいいかも、・・・まあ、保留 。

おしゃれだ 。 ・・・これは・・・脚下寄りの保留 。

愛煙家 。 ・・・う~ん、僕はタバコ吸わないし、・・・却下 。

あと、やさしい人だってこと・・・、おっ、これ、いいじゃん 。 あの人の、やさしさ、か・・・。

 

やさしい人ってことだと、・・・それ、あの人の得意技なのか ? それとも弱点 ?

まあ、それは置いといて、あの人のやさしさを、一体どういうふうに活かせばいいんだ ?

 

!! 

ひらめいた !! 

あの人の目の前でわざと転ぶ !!  かなりの高確率で助けてくれそうだ、へへへ 。

・・・バカじゃん、そんなの良くない、ダメに決まってる 。

・・・いや、・・・でも、・・・背に腹は代えられないかも・・・。

だって、そろそろ本社に戻されてもおかしくない時期だし、ぼやぼやしてたら、それこそ会えなくなっちゃうかも 。

 

ちょっと大袈裟に転んで、かかととかを痛めたことにして・・・。

名前や連絡先を聞いといて、後日改めてお礼に伺う 。

あとは、スーパーでも時々会うから、挨拶を交わして、ちょっと話したりとか 。

 

うまくいくかもしれないけど、・・・なんて言うか、これ、安っぽい 。

第一、潔くない 。 僕のポリシーに反する 。

もしもその手でうまくいったとしても、ず~っと、後悔しそうだし 。

後々、僕、最初に、あの人を騙したんだって・・・。

あの人のやさしさにつけこんで利用した、ヒドい奴だって・・・。

・・・それだったら、恥ずかしいけど、待ち伏せして直接打ち明ける方がうんと正直だし、まだましだ 。

・・・やっぱり、わざと転んで助けてもらうの、ナシだ・・・ 。

 

 

名案を思いつかないまま、時間だけが過ぎてゆく 。

 

そんなある日、かの人がスーパーの若い従業員を手助けする場面に遭遇した 。

台車に商品を乗せて、ひとりで運び込もうとする青年 。 台車は自動扉ギリギリくらいの幅があって、油断できない 。 しかも積み方が悪いのか荷崩れしそうで、そっちにも気をつける必要があって、苦労している 。

そこに通りかかった良介、事態を察するや素早く商品を支えた 。

「 オーライ、オーライ、俺が持ってるから、そのまま、左右だけ気を付けて 」と青年に声をかける 。 そのおかげで商品は無事に運び込まれた 。

ありがとうございましたと、礼を言う青年に、

「 うん 。 ひとつ、貸し、ね 」と手を挙げて店内へと消える良介 。

 

・・・カッコい~ !!  

人を助けるのは当たり前だっていう、あの人のありのままの思いが伝わってくる 。

・・・それに、超スマートだ 。

 

 

またある時は・・・。

レジで良介の前に並んでいた年配の婦人が、良介の少ない買い物に気付いて、順番を替わってくれたことがあった 。 先にレジを済ませた良介は婦人にお礼を言って、当然のごとくに、婦人のカートから重そうな買い物カゴを抱えてレジ台の上に乗せた 。 素早い動きに驚きながらも、とっても嬉しそうな婦人の笑顔 。

 

・・・カッコい~ !!  人の好意を無にしないし、お年寄りにやさしい 。

さすが !!

 

 

でも・・・。

・・・ちょっと心配になってきた直樹 。

こんなペースで、いろんな人を喜ばせていたら・・・。

僕のライバルがどんどん増えちゃうな 。

 

うかうかしてたら、僕の大事な人を誰かに取られるかも・・・。

 

わ~、もう、これくらいで、ジェントルアクション、やめて欲しいな・・・。

 

早くなんとかしないと・・・。

 

状況はかなり深刻だ、・・・マズイぞ 。