第 三 章    君 は  五 月 の 風  -10-

 

えっ ?  タバコ、7個あるのに、1個でいいって・・・?

10個欲しいのに ? ・・・一体、どういうこと・・・?

やり取りを聞いていた直樹も、不思議に思った 。

 

そして・・・。

そのあとの良介の言葉は・・・。

 

「 うん、1コね、売り切れたら次の人が困るだろうし、俺、1コあれば、今日は、

しのげるから 」

 

それを聞いた瞬間、直樹は胸のあたりに、まるで突風が吹き抜けたような強い衝撃を覚えた 。

 

エッ !?  エッー !?  スゴイ !!  ・・・こんな人がいるんだ !!  

ワー、・・・初めて見た・・・。

 

だって、だって、10個欲しくて、7個しかなかったら、誰だって、7個全部くれって言うだろう 。

10個揃わないことへの不満を口に出す人だっているさ 。

でも、この人、この人、・・・売り切れにならないようにって、・・・次の誰かが困らないようにって・・・。

 

・・・ハアー。 スゴイなあ 。

・・・・・・・・・。

 

・・・そりゃあ、・・・もしも目の前に困っている人がいたら、たとえそれが知らない相手でも、手助けする人は少なくないと思う 。 僕だって、助けてあげたい 。

でも、この人、そんなレベルじゃないんだ 。

見えもしない誰かのために、その誰かが困らないようにって、考える人なんだ 。

 

エ~ !! ・・・うわ~ !!

正真正銘、本物のジェントルマンだ・・・ 。

ルックスだけじゃなくて、カッコいいなあ・・・。マジ、カッコいい・・・。

 

カッコい~ !!

 

 

・・・僕も、・・・この人みたいなジェントルマンに、・・・なりたい ・・・。

・・・僕も、・・・なりたい ・・・。

 

 

この一件で完璧に良介のファンになった直樹 。

 

次から次へと知りたいことが浮かんでくる 。

 

何をしている人なんだろう・・・ 。

名前は ?

何才かな・・・ 。

いつも一人でいるけど、結婚してるのかなあ 。

 

・・・だが、どれひとつとして、その答えはわからなかった 。

 

ただひとつだけ、はっきりしたことがある 。

 

それは、直樹がその男性を好きになったってことだ 。

名前も知らない男性、挨拶を交わしたことさえ一度もない相手に、心を奪われてしまった 。

 

 

 

そして・・・。

 

 

~  直樹の場合、そこから先が幾分変わってると言えるだろう  ~

 

僕・・・。

あの人が、あの、カッコいいジェントルマンが、・・・欲しい 。

欲しい !!  欲しい !!  めっちゃ、欲しい !!

あの人を、僕だけのものにしたい 。

だって、生まれて初めて好きになった人だから 。

他の誰かに取られるなんて、そんなの、絶対に嫌だ !! 

だって、僕の、僕の、・・・僕の初恋だぞ !!

 

 

・・・・・・・・・。

・・・なんとも・・・。

好きになったから欲しい、・・・まるで子供だった 。

男同士だということなんか、全く気にしていない 。

独身かどうかも、そんなの、問題じゃなかった 。

好きなんだから、近づきたい、仲良くなりたい、お付き合いしたい !!

 

・・・世間知らずなのか ? わがまま ?

それとも、・・・よほど純粋なのか・・・?

 

 

 

~  さらに、こんな時、原峰直樹は、・・・迷わない  ~

 

僕、必ず、あの人を手に入れる !!

 

そう決心するのにも時間はかからなかった 。

 

 

 

~  無論、ひるまない 。  ましてや、決して逃げたりはしない  ~

 

ようし !!

あの人を手に入れるために、先ずは作戦を立てなくちゃ !!

 

 

 

ひとり、闘志に燃える原峰直樹・29才 。

旧上原藩主・原峰家の、美しい御曹司 。 

 

・・・初めて訪れた恋を迎え撃つべく、ひとまず呼吸を整える若様 。

 

・・・燃え盛る炎のような思いを良介に抱きながら、心の中で静かに、

そんきょの姿勢を取った 。