第 三 章 君 は 五 月 の 風 -8-
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
宏先輩と照くんと直樹 。
俺が好きになった3人 。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
宏先輩は俺の初恋の人だ 。 とてもやさしかった 。
父さんを亡くしてすぐの頃 。 高校に入っても辛くて、ぼ~んやり、クラシック音楽を聴いてた俺 。 後輩思いの宏先輩は、初心者の俺に楽譜の読み方をわかりやすく教えてくれた。 俺、宏先輩がいなかったら多分ブラスも続かないで、音楽との縁も切れてしまって、・・・そのあとの人生も今とは違っていただろうな 。 宏先輩のおかげで、俺の人生、穏やかで豊かになったと思う 。 それと、人を好きになることの幸せを知って、諦める切なさも経験した 。 いろんなことを教えてくれた宏先輩は、俺の恩人だ。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
照くんはと言うと、おとなしい子で、ちょっとずつちょっとずつ、俺の心の中に入って来た 。 だんだん好きになって、もっと近づきたいなって思ったけど、ダメになったんだ・・・。 ミスったのは俺だろうな 。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
ふたりとは180度違ってたのが直樹だ 。 いきなり心を鷲づかみにされた 。 そしてそのまんま、出会った瞬間から今までず~っと、俺、直樹に翻弄されっぱなしだ 。 照くんのこともあって、俺には静かな生活が合ってると思っていたから、直樹には戸惑うばかりだ 。 俺なんかの手には負えない、若様 。 なすすべもなく、ますます好きになっていく俺 。 今だって、会いたくて会いたくて、でも会えなくて ・・・。 それでいて、会ってた頃よりももっともっと鮮明に、直樹は俺の心の中に居る 。 なのに俺に出来るのは、せいぜい直樹の近くをコソコソうろつくことくらいだ・・・。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
波の音・・・。
繰り返し、繰り返し、ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~って・・・、俺も同じだな 。
直樹 ! 、直樹 ! 、直樹 ! 、・・・繰り返し、繰り返し、心の中で叫んでる 。
直樹の返事はないけど・・・。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
・・・フー・・・。
ア~ア・・・。
・・・・・・。
・・・、こんな時の宏先輩のアドバイスは・・・ 。
” 良介、もっと積極的に頑張れ !! ” ・・・か・・・。
・・・似たようなことは直樹からも言われたな・・・。
” 次に誰かを好きになったら、その思いをちゃんと伝えた方がいいと思います ”
それで例の約束をしたんだ・・・。
ハハハ、ダメな俺へのメッセージ・・・、宏先輩と直樹が一致してる 。
・・・ってことは・・・。
ン !? ひょっとしたら、・・・照くんも・・・?
!!!!!
えっ !? あん !?
もしかしたら、そうなのか・・・?
あの視線って・・・、照くんも、俺に、・・・ふたりと同じようなことを言いたかったのか ?
はっきりしろよ、って 。 つまり、煮え切らない俺のことが、はがゆかったとか・・・?
・・・ああ !! ・・・そういうことか・・・。
うん、そうだ・・・それなら、理解できそうだ 。 つじつまも合う 。
照くんが俺の気持ちに気付いていたのは間違いない 。 周りからも言われてたし 。
毎日毎日、DVDを借りに来て、自分のレジにしか並ばない客 。 そこから何も進まない客 。
・・・そうだろうな・・・、照くんはおとなしい子だと思ってたけど、本当のところはわからない 。 店員と客の会話しか交わしてないし 。
あの刺すような視線は、俺の気持ちに対してではなくて、はっきりしない俺の態度に対してってことだったんだ・・・。
あの視線に表れてた ” 拒絶 ” は、男に好かれることに対してではなくて、優柔不断な俺の態度に対する、照くんの本音だったんだ 。 店員としてではない、照くんの、男としての 。
・・・そうだ、そうに違いない 。
・・・で、結局は、・・・やっぱり俺がダメだったってことだ 。
照くんに睨まれて当然だ・・・ 。
・・・そうか、・・・3人とも、・・・同じってことか・・・ 。
宏先輩のアドバイスや、直樹の助言よりも、あのおとなしい照くんの視線が一番強烈だ 。
・・・ああ、でもこれで、なんとなくスッキリしたかも 。
3人とも俺の消極的な態度を諫めてる・・・。
俺、礼を言うべきなんだナ 。
先輩、照くん、直樹、・・・どうもありがとうって 。
そうか・・・やっと納得いったけど・・・。
・・・なんとも、・・・参ったナ・・・。
・・・人を好きになるって、ムズカシ過ぎる 。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
俺はただ、この写真のように、美しくて穏やかであったかい気持でいたいだけなのに・・・。
大好きな直樹に、もっと近づきたいって思うことが、そんなに欲張りなことなんだろうか・・・。
わからないけど、何かを手に入れるためには、それ相当の代償を払うべきなんだろうな、きっと 。
・・・ああ、人を好きになるって、簡単じゃない 。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
俺、もっともっと、頑張らないとダメだ 。
泣いたり、嘆いたり、恥をかいたり、苦しんだりしないとダメなんだ・・・。
自分をさらけ出さないとダメなんだ・・・。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。