第 三 章 君 は 五 月 の 風 -7-
良介から、いつもの笑顔が消えてしまった 。
仕事でも、つまらないミスが続く 。
こんなことは珍しい 。
四六時中、直樹のことが頭から離れない 。
どうしたらいいのか決められないままだ 。 どうしたいのかさえも、わからなくなってきた 。
更に追い打ちをかけるように、何故か照くんの視線がフラッシュバックして、良介を責め立てる 。
ああ・・・、あの、刺すような冷たい視線は、一体なんだったんだろうか・・・。
照くん・・・・・・・・・。
あの時は俺もテンパってて、そのあとしばらくはひどく落ち込んでいた・・・。
あの視線・・・。
今となっては確かめようもないけれど、何故だか、とても気になる 。
これまでずっと、照くんは俺からのアピールが不愉快だったんだって思ってた 。
だから、はっきりした形で振られたわけじゃないけれど、俺には思い出したくない辛い記憶だ 。
それで俺、・・・無意識のうちに照くんのことを封印してたんだ、きっと 。
・・・それが、・・・直樹との仲が立往生している今になって、まるでこの状況に呼応するみたいに、何故か照くんのことが気になって仕方ない 。
それにしても、何が ? 今さら何が気になるんだ ?
・・・一言で言うと、あのおとなしい照くんが・・・、あんな烈しい一面を見せたことが信じられない 。
それほど俺のことを嫌悪していたのなら、・・・あれ以前から少しは態度に出ていたとしてもよさそうなもんだけどな・・・。 それは微塵もなかった 。 自信を持って言える 。 それにあの時の、直前の会話だって、問題はなかったはずだ 。
あの状況・・・。
バイト仲間に俺のことで揶揄されて、それを当の俺が目にした・・・。
でも、照くん本人は、俺のことを笑いものにしていたわけじゃなかった 。
だから、その点では、俺に対して、気まずかったり、慌てたりすることはなかったと思う 。
だけど、・・・俺のこと睨んでた 。 非難してた・・・な 。
何故、あんなに熱くなったんだろう・・・あの照くんが・・・。
単純に、髪の毛や耳たぶをいじられるのがイヤだったのか ?
いやー、あの年頃だと、友達とあれくらいのじゃれ合いなんか、普通だと思うけどな・・・。
あの視線、もっと別の何かを俺に訴えていたのかもしれない・・・。
でも何を ?
・・・男に興味のない男が、もしも男から好意を寄せられたら、・・・どうなんだろうか・・・。
その辺は、俺にはよくわからないなあ・・・。
・・・なんか、もうちょっとって気がするんだけど・・・。
それに、根拠も何もないけど、もうちょっとで、照くんと直樹とが繋がりそうな気もする・・・。
・・・ああ、ダメだ、わからない・・・。
でも、何かが心に引っ掛かる・・・。
・・・わからないまま、多分俺、土曜日にはまた上原へ行くんだろうな・・・。
ここにじっとしてなんかいられない 。 息が詰まりそうだ 。
直樹に会えなくても、上原へは行きたい 。
あの店で一息つけば、何かいい考えが浮かぶかもしれないし・・・。
~土曜日~
午前中、2軒のスタンドで給油してもらったが、直樹はいなかった 。
” 波の音 ” へ向かう 。
成果はなかったけど、何となく気分は悪くない 。
今日はパスタにしようかな・・・。 それと、モカかな・・・。
この1週間ずっと、直樹のことを考えていた俺 。 そしたら、なぜか照くんのことも気になってきた 。
何だ、この状況・・・?
直樹のことだけで精一杯なのに、何で今さら、照くんなんだ ?
俺の乏しい恋愛経験じゃ、どうしたらいいのか見当もつかない 。
・・・でもこんな時こそ、・・・頑張らないといけないんだろうな、きっと 。
宏先輩が言ってたように、もっと積極的に 。
・・・ !!
ワー、ついに宏先輩までお出ましだ・・・。
俺の恋愛遍歴、総動員、ってか ?
・・・3人しかいないけど、・・・それも、片思いのみ・・・か・・・。
直樹でつまづいてる今、何故か照くんが・・・。
10年の時を超えて、まるで俺に何か言いたいことがあるみたいに 。
で、宏先輩は相変わらず、後押ししてくれてる 。
” 良介、もっと積極的に頑張れ !! ” ・・・・・・か・・・。
・・・・・・ハア~・・・。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
「 いらっしゃいませ 」
「 ナポリタンと、あとでモカをください 」
「 かしこまりました 」
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
フー・・・。
ああ、【 オレンジ色の入江 】 ・・・きれいな写真だなあ 。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
この写真、なんだか、・・・俺の気持ちをまっさらに、前向きにしてくれる・・・ 。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。
ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。