第 三 章    君 は  五 月 の 風  -5-

 

 

さっきと同じテーブルに着く 。

 

ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。

 

「 ブルーマウンテンをください 」

「 かしこまりました 」

 

1回目がレギュラーコーヒー、今がブルーマウンテン・・・次はキリマンジャロかモカにしよう 。

直樹はいつもカフェオレだ 。 そしてたいがい砂糖を多めに入れて飲むんだ 。

・・・アハハ、お子様か !?

・・・まあ、お子様って言えばお子様かもしれないな 。

だって、無邪気だし、素直だし、いろんな常識を知らないし、泣き虫で可愛いし、・・・。

 

ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。

 

・・・でも直樹、仲の良い友達はいないんだ・・・ 。 今はお父さんが体を壊して、事業を引き継いだばっかりで忙しくって・・・、お子様には大変な状況だ・・・。

どうしてるんだろう・・・直樹坊っちゃん・・・。

 

ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。

 

・・・俺、事業とか経営とか何にも知らないし、実感としてはわからない 。

直樹のこと、明くんが言ってたな 。 本社から来たエリートだって 。

直樹が来てから売り上げも増えたって 。 たいしたもんだ 。

・・・今も、多分うまくこなしているんだろうな、エリートだもの 。

 

関係あるかわかんないけど、直樹には俺なんかが持ち合わせてない、器の大きさがある 。

俺の疲れや苦しみを全部引き受けるって言って、俺を泣かせたし 。

おふくろの料理の手間にまで思いやってくれてた直樹 。

明くんたちからも慕われてる、若きチーフ 。

やっぱり、持って生まれた人の上に立つDNAと、まっすぐに育った良さがあるんだ・・・。

 

すごいナ・・・。

そうか、・・・俺なんかがお子様呼ばわりするの、とんでもない、間違ってた 。

 

ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。

 

原峰家のスタンドって、何店舗あるんだろう ?

仮に6店舗あるとして、従業員が5人体制だとしたら、全部で30人 。

あと、マンションが20か所、管理人さんも20人として、スタンドと合わせると、50人 !!

わー、そんなにたくさんの人とその家族の生活が、今や直樹の肩に掛かってるのか 。

・・・エ~ !!

 

・・・直樹、・・・ゴメン 。

淋しいとか、会いたいとか・・・、俺、自分のことしか頭になかった 。

自分のことにばっかり気がいって、おかしくなってる 。

・・・こんなんじゃ、ダメだ 。 いい年をして、恥ずかしい・・・ 。

俺の方がよっぽど、・・・ガキだった・・・。

 

・・・ああ、これ気付いただけでも、上原へ来てよかった・・・ 。

 

ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。

 

この状況、照くんに夢中だった10年前と似てる・・・ 。

 

照くんのバイト先へ毎日のようにDVDを借りに行ってた 。

照くんは丁寧な応対をしてくれる、おとなしい子だった 。

照くんのレジに並ぶのが不自然に見えないように、必死でタイミングを見計らってた俺 。

顔を覚えてくれて、ちょっとは話をするようになって、イイ感じだって思ってたのに・・・。

・・・結局、俺の思い違いだったんだ 。 ひとりよがりってやつだ 。

 

ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。

 

あの時と同じように、・・・俺、今も、冷静とは言えない 。

直樹を気遣うよりも、ただ会いたい自分の気持ちを優先しようとしてる・・・。

俺、多分その後ろめたさがわかってるから、電話もしないでいきなり会おうとしてるのかも 。

・・・ああ、俺、・・・イヤな奴だ・・・。

サ・イ・テ・イ、・・・だ 。

 

土曜日まで、よ~く考えよう・・・。

 

ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。

 

 

「 ありがとうございました。 運転、お気を付けて 」

「 ありがとうございます。 ごちそうさまでした 」

 

 

 

店を出ると、砂浜に若者たちがいた 。 男女合わせて7~8人 。

お互いに写真を撮り合ったりしている 。 楽しそうだ 。

 

「 やめろよ !! 」  ひときわ大きな声がした 。

見ると、嫌がる男の子と女の子を他のみんながくっつけて、ふたりを撮ろうとしている 。

 

もっとくっつけ !  キスしろよ !  嬉しいくせに !  ほら、もう1枚 !

 

抵抗しても無駄のようだ 。

 

「 やめろよ !! 」 

 

ザ~・・・、ザ~・・・、ザ~・・・。

 

 

 

 

入江をあとにして帰路に就く良介 。

 

 

「 やめろよ !! 」 ・・・か・・・。

 

・・・耳が痛い・・・ 。

 

 

「 やめろよ !!

 

・・・それは、10年前、良介が最後に聞いた、照くんの言葉だった 。