第 三 章    君 は  五 月 の 風  -1-

 

 

【   君 は  五 月 の 風   】

 

 

    君 は   五 月 の 風

    僕 の   心 の 空 を

    悲 し い く ら い   青く

    染 め て   行 っ た

 

 

 

       お だ や か な 海 を   ふ た り 見 て い た

       君 の 話 を   聞 き な が ら

       幸 せ だ っ た   あ の 日

 

       波 打 ち 際 か ら   振 り 向 く 君 の

       額 に 光 る 汗 が   僕 を   拒 絶 し て た

 

 

 

    あ あ ・・・

 

    君 は   五 月 の 風

    僕 の 心 に   吹 い て

    鮮 や か な   あ こ が れ を   く れ た け れ ど

 

 

    君 に   め ぐ り 逢 え た

    歓 び の   裏 側 で

    何 ひ と つ   分 か ち 合 え な い

    せ つ な さ が   つ の る

 

 

 

 

 

 

ハア~・・・。

もう3日も、直樹に会えない 。 今日で4日目だ 。

 

日曜日に良介の実家へ行って、月曜日には一緒にコーヒーを飲んだ 。

赤飯を上手に蒸し上げました、栗ようかんも美味しかったです、って言ってた直樹 。

 

そして、火・水・木・金・と、スタンドに直樹の姿はなかった 。

 

ひとり、コーヒーショップで直樹を待っている良介 。

 

 

もう 8:00を過ぎたから、今日も、多分来ないな 。

・・・一体どうしたんだろう 。

仕事にも出てないみたいだし 。

出張や研修なら、前もってわかっていただろうから、教えてくれたと思う 。

やっぱり、何かあったのか ?

・・・何かって、何が・・・? 

風邪でもひいたのかな・・・。

まさか、事故とか ?

 

何度も電話しようとした良介 。

その度に、きっと明日は会えるさという気がして、電話しそびれている 。

 

・・・今日は金曜日だから、明日は給油に行くし、何かわかるだろう 。

 

 

良介が思い描く次のプロセスは、直樹が良介のマンションに、いつでも気軽に来てくれることだ 。

仕事の帰りに寄って、コーヒーを飲んだり、直樹が料理の腕を振るってくれたり 。

そんな、他愛もないことを想像して楽しんでいる 。

 

直樹のコーヒーカップを買わないといけないな 。

あと、直樹の腕前に見合った調理器具も揃えよう 。

俺が今使ってる器具なんて、直樹のレベルだと、“ ままごと遊び “ みたいなもんだろうから、物足りないだろう、きっと 。

 

それが、まさか4日も会えない日が続くなんて 。

淋しいと思ったのは少しの間だけで、今は直樹のことが心配になってきた良介 。

落ち着かない 。

コーヒーはおいしくないし、チャイコフスキーも耳に残らない 。

 

 

直樹、俺の中でこんなに大きな存在だったんだ・・・。

俺、いつの間にか、 “ 直樹依存症 “ だ、・・・それも、かなり重症の 。

 

 

 

土曜日 。 スタンドに、直樹の姿はない 。 明くんに聞いてみた 。

 

「 原峰くん、ここんとこ見ないみたいだけど 」

「 あ~、・・・はい 。 ・・・チーフ、・・・ちょっと休んでるんです 」

「 何かあったの ? 」

「 えーっと、そのう、・・・チーフじゃなくて・・・実は、・・・チーフのお父さんが、・・・倒れたらしくて・・・上原の 」

「 お父さんが !?

「 はい・・・。 あのう・・・榊さん、すみません、これ、言っちゃていいのかどうかもわからないんですけど、榊さんだからいいかな、って思ったんで・・・ 」

「 あっ、ごめんね、答えにくいこと聞いたりして 。 ごめん 。 でも、明くん、ありがとう 」

「 詳しいことはわからなくて、みんな心配してるんです 。 チーフがいないと、なんだか火が消えたみたいだし、ここ・・・ 」

 

 

そうだったのか、お父さんが倒れた・・・。

・・・直樹のお父さんって幾つなんだろう 。

ホント、俺、直樹のこと、何にも知らないな 。

直樹が30才で、お姉さんがいるんだから、・・・お父さんは、60代の前半くらいだろうか 。

役所の定年が60才だから、お父さんもまだまだ若いよな・・・。

 

 

・・・倒れたって、・・・どういう・・・?

 

そのまま休んでるってことは、お父さん、目が離せないのか?  かなり悪いのかな・・・。

 

いずれにしても、直樹、大変な思いをしてるだろう 。

 

俺、電話かけてなくて、良かったんだ、多分 。

 

・・・淋しいなんて、言ってる場合じゃなかった・・・。

 

 

 

心配だけど、直樹からの連絡を待ってるのが良さそうだ 。