第 二 章 青 春 の 贈 り 物 -40-
えーっと、なんだったかな ?
少し話を戻そう 。
「 原峰くんの気持ちがすっごく嬉しくってね、それで泣いちゃった 」
『 そうなんですね、はい 』
「 まあ、確かに、腰をグリグリ押し付けられて慌てたし、動揺もしてたけど・・・ 」
『 ・・・はい 。 フフフ 』
「 あらっ、今、笑った ? 」
『 ・・・笑ったっていうか、なんか微笑ましくって 。 ・・・榊さん、かわいい、ヒヒヒ 』
「 また笑ってる・・・。 エッ !? かわいい、って言った ? 」
『 ・・・はい 。 すっごいかわいいし、カッコイイし、・・・かわカッケー、アハハ、最高だ 』
上機嫌の直樹に煽られるように、ちょっと構えていた良介の気持ちも軽くなる 。
「 かわいいって・・・。 よーし!! じゃあ聞くけどさ、原峰くん、もう、・・・経験とかあるの ? 」
『 経験って、エッチのですか ? 』
「 うん 。 俺も白状したんだから、原峰くんもさ、・・・その辺どうなの ?」
『 無いですよ 』
あっさりした答えが返ってきた 。
「 あ !? ・・・無いんだ・・・そう、・・・なんか、・・・ゴメン」
『 ・・・無いんですよね、・・・僕も・・・ 』
今度はしんみりつぶやくように言う直樹 。
「 ・・・じゃあ、もうひとつ、その、・・・特に理由とか、あったりするのかな ?」
『 理由ですか ? それは、これまでそんな相手に出会ってないからです 』
「 すごくはっきりしてるんだね・・・、なんか、偉いな 」
『 エ・ラ・イ、・・・ですか ? 』
「 うん ・・・」
『 ・・・自分では、特に意識もしないで普通にしてるつもりなんで、・・・たまたまです 』
「 ・・・そう ・・・」
・・・あっ ? ちょっと待てよ、だとしたら、・・・。
・・・じゃあ、さっきのグリグリは何だったんだろう・・・。
あの時、もしも俺が泣いたりしなかったら、あのあと俺たち、どうなってたんだ ?
直樹は・・・積極的だったよな・・・。
それって・・・俺とだったら、エッチOKってこと、・・・なの ?
『 僕も、基本的には榊さんと同じです 。 ちゃんとお付き合いして、お互いが求め合ったら、そういう関係になるんだろうな、自然な成り行きで、って感じです 』
「 ・・・うん、わかった 」
・・・そうか・・・。
ン ? 今の俺、 ” わかった ” 、って・・・あら ? 変だったかな・・・?
直樹には ” 了解したよ ” 、みたいに聞こえたかも・・・。
じゃあこれからは、俺たち、セックス前提で付き合おうよ、っていうふうに・・・。
ああ、ダメだダメだ 。 ・・・全然ダメだ 。 ずーっと、チグハグしてる 。
なんか、変に力が入ってて、空回りしちゃってる 。
いつもはよくしゃべるのに、今夜は言葉が途切れがちなふたり 。
良介がタバコを消す 。
また、しばらく沈黙 。
やがて直樹が言った 。
『 ・・・それじゃあ、榊さん、・・・おやすみなさい 』
「 あ、そうだね、うん、おやすみ」
ドアを開けて降りようとした直樹が、念を押すように言う 。
『 あっ、榊さん、運転、くれぐれも気を付けてくださいね 』
「 うん、大丈夫、大丈夫、ありがとう 」
『 だって、今夜は、・・・その、いろいろあったし、ホント、安全運転でお願いします 。 ・・・榊さんになんかあったら、僕、多分、完全に壊れちゃうんで・・・ 』
「 えっ !? ・・・うん、わかった 。 原峰くんが壊れたら大変だ 。 慎重に運転するから、じゃあね 」
『 はい、また 』
「 うん、また 」
・・・壊れちゃう ? しかも、完全に壊れちゃう ?
壊れるって、なんだ ? 俺になんかあったら、直樹、壊れちゃうんだ・・・。
ン~、逆に、もしも直樹になんかあったら、・・・俺は、・・・俺もダメになっちゃうだろうな、きっと 。
確かに俺、今夜は心拍数上がってるみたいだから、・・・落ち着いた方がいいかもしれない 。
直樹が言うように、慎重に・・・少し休もう・・・。
山崎通りに出る手前で再び停車する良介 。 まだマンションの敷地内だ 。
ここでもう一服しよう・・・。
直樹、もう7階まで上がったかな ?
タバコに火をつけ上を見上げた良介、さっきは気付かなかったプレートが目に入る 。
” レジデンス・原峰 山崎通り ” と書いてある 。
えっ !! レジデンス・原峰、って、・・・つまり、ここ全部 ?
こんな高級住宅地に、しかもこんなに広く・・・・・・ハ~、・・・すごい・・・ 。
俺、てっきり、7階をお父さんが借りてるって意味だと思ったけど、違うんだ 。
ここ全部、原峰家所有の賃貸マンションで、7階に直樹が住んでるってことか・・・。
それにしてもなんか、今夜は会話がうまく噛み合わなかったなあ 。
俺は家賃が高そうだって言ったのに、直樹は高台だから云々って受け取ってたし・・・。
真っ先に金銭的なことに関心を示して、俺、ちょっと恥ずかしい・・・。
やっぱり、原峰家って、俺ら庶民とは桁外れだ 。
最初っからステージが違うんだから、そりゃあ会話とかもいろんな隔たりがあって当然か・・・ 。
・・・でも、・・・ぴったし一致したことがひとつだけあったぞ 。
ふたりともセックス未経験で、ふたりとも恋愛感情を大切にしたいってこと・・・。
・・・あ~、良かった 。
そこが一緒で、ホント、良かった 。
これって、・・・最高だ・・・ 。