第 二 章    青 春 の  贈 り 物  -25-  

 

幸運なことに、直樹は1階のロビーに居た 。 恰幅のいい初老の紳士と立ち話をしている 。

出ようとした直樹と、入って来た紳士が出会ったのだろう 。

 

良介は掲示板を眺めながら待つ。 ふたりの声は聞こえるが、直樹から良介の姿は見えない 。

 

「 ・・・それはそれは結構なことですな 。 それでは、直樹坊っちゃん、皆さんに、どうぞ、くれぐれもよろしくお伝えください 」

『 はい、承知しました 。 それでは、失礼します 』

最後に直樹がそう言って、ふたりは別れた 。

 

 

 

ホールを出たところで直樹に声をかける 。

「 原峰くん !!

振り向く直樹 。

『 榊さん !?  どうしたんですか ? 』

「 うん、今日は本当にありがとう 。 絵まで買ってくれるなんて、嬉しかった 」

『 あ、はい 。 いい買い物をしました 』

 

良介のドキドキは収まらない 。 直樹を目の前にして、いっそう激しくなった 。

 

「 原峰くん、時間があればさ、今日これから俺につきあってよ 」

『 はい 。 ・・・でも、お友達はいいんですか ? 』

「 あ、いいのいいの 。 俺が抜けてもあいつら盛り上がるだろうし、・・・いや、俺がさ、その~、原峰くんと居たいから、・・・ね ? 」

『 はい 。 喜んで 』

 

・・・ふ~ 。  言えた !!  言えたよ 。 俺も、頑張れば、出来るんだ・・・。

 

いつもの無邪気な笑顔を見せる直樹 。

 

・・・あれ ? この笑顔、今日は今が初めてだ 。

・・・じゃあ、さっきまでの笑顔は、・・・何だった ? ・・・・・・ ?

 

 

一対の絵を、直樹と1枚ずつ買って、嬉しかった 。

そして直樹を追いかけて来た 。

ドキドキしながら、一緒に居たいと誘った 。

 

恋愛未経験の純情な良介にしてみれば、直樹に好きだと告白したも同然だった 。

直樹が受け入れてくれて、満たされた思いだ 。

達成感を味わい、直樹との距離も縮まった気がする 。

 

 

「 じゃあさ、もっとよく見せてよ 」

『 え ? なにをですか ? 』

 

良介は無言のまま、直樹の正面にまわって向き合い、両手を直樹の肩に置いた 。

ネクタイの結び目を、ちょっと直してやる 。

手の甲で胸のあたりに触れ、スーツとコートの質感を楽しむように、生地をゆっくりなぞる 。

 

・・・わー、スーツもコートもすごく上等だ・・・ 。

 

緊張した面持ちでじっとしている直樹 。

 

「 う~ん 。 つくづく、カッコいいよね 。 そう言えば、真美ったら、黄色い声なんか出してたな 」

『 ・・・からかわないでください 』

直樹の言葉を無視してチェックを続ける良介 。

 

直樹を反転させて後ろ姿をチェック 。 縫製の良さは一目瞭然だ 。

再び直樹を反転させて元に戻し、今度は直樹の髪に目を止める 。

「 髪、今日は分けてるんだね 。 初めて見た 。 あっ、スーツバージョン ?」

『 はい 。 ・・・榊さん、そんなに見られたら恥ずかしいです 。 人も見てるし 』

「 あ、ゴメン、悪かった 」

 

並んで歩き始める 。

 

「 俺、嬉しくてさ 。 今日は鼻が高いよ 」

『 榊さん、・・・さっきから、訳わかんないです、僕 』

「 うん、いいのいいの 。 とにかく今日はありがとう 。 周りに人がいなかったらさ、ここで思いっきりハグしたいくらい、俺、嬉しくて感激してるんだ 」

『 ・・・はい 』

「 まあ、少し歩こうか 。 そうだ、そこの植物園、行く ? 」

『 はい 』

 

追いかけて来た良介は上機嫌だ 。

少し戸惑っているような直樹 。

いつもとは逆に良介が質問を続ける 。

 

 

「 踊りの会の用は済んだの ? 」

『 はい 。 それが、受付に御祝儀を預けて帰ろうとしたら、従兄弟につかまっちゃって 』

「 従兄弟さんに ? 」

『 はい 。 4つ下なんですけど、自分の舞台をどうしても見てくれって言われて、結局1時間くらい予定オーバーでした 』

 

「 そう、・・・原峰くんは・・・踊らないの ? 」

『 僕ですか ?  踊らないって決めてるわけではないんですけど、だいぶ、遠ざかってます 。 あっ、でも、榊さん、実は・・・今日、久しぶりに、その、踊っちゃいました、僕 』

「 ん ?  その舞台で ? 」

『 いいえ 。 ・・・ああ、そうか、・・・従兄弟の踊りを間近で見たせいか・・・。 実は、僕、ブラスの皆さんや宏さんの前で、その、ずっと気合入れて振舞ってたんです 』

 

「 気合入れて ? 」

 

 

久しぶりに踊ったとか、みんなの前で気合入れてたとか、・・・。

 

・・・一体、どういう意味なんだ ? ・・・ 。