第 二 章    青 春 の  贈 り 物  -10-

 

店を出て歩き始める。 食後だからか、直樹の歩くのが遅いような気がする。

良介も直樹に合わせてゆっくり歩く。

 

「 長いつきあいみたいだね 」

『 そうですね、はい。 ガキの頃からです 』

「 年、そんなに近くはないみたいだったけど 」

『 はい。 あいつ、・・・5コ、下ですね。 僕の叔父が剣道の道場やってて、近所の男の子はたいてい通ってたんです 』

 

またまた出て来た、新情報・・・もう、数はわからない。

 

「 原峰くん剣道やってたんだ。 どおりで姿勢がいいはずだ。 いろんな反応とかも、いつも早いなって感心してた。 そうか、剣道か 」

『 姿勢、いいですか? 』

「 うん。 それと身のこなしがさ、とっても洗練されてて、自然な感じでいつもきれいだよね 。 それも剣道なのかなあ 」

『 ああ、それは、ひょっとしたら、・・・その叔父の奥さん、叔母、ですけど、日舞を教えてて、姉と一緒に僕も習わされたんです。 それほど関係あるかどうかはわかりませんけど 』

「 日舞? 」

『 はい。 剣道より踊りが先で、ものごころがつく頃にはもうやってて、・・・男の子は少ないもんだから、女の子の相手とかさせられてるうちに、結構長くやってました。 一応、名取りです 』

「 そうか。 それで、・・・所作って言うの? 身についてるんだね 」

『 さあ、 どうでしょうか・・・意識はしてないんですけど。 ・・・スタンドが込み合った時とか、・・・人ゴミの中を歩く時とか、なんか自然に体が動いちゃうことはあります。 剣道か、日舞かよくわかりませんけど。 無駄な動きをしないとか、流れに逆らわないとか 』

 

思い返すように淡々と話す直樹。 その様子から察して、誇張も矮小化も伝わっては来ない。 素早くてきれいな動きが身についていて、 特別に意識しなくても体が自然に動くのに違いない。 

 

「 すごいね、すごいしカッコイイよね。 そうか、日舞も。  だから、いつも涼し気なんだね。 若いのに上品なたたずまいだなって思ってた 」

『 いえ、そんな、ほめすぎですよ。 親にやらされた、ただの習い事ですって 』

「 剣道のリンとした雰囲気とさ、ソフトなイメージもあるし、人を惹きつけるオーラ出まくってる 」

『 もう、照れるじゃないですか 』

「 時代劇の役者さんとか、なれるよ、きっと 」

『 時代劇・・・チャンバラですか? 』

「 うん。 ハンサムだし、すぐに人気スターだな 」

 

『 うわ~。 今日はコンサート行って、すごくほめてもらって、忘れられない日になりそうです 』

「 俺もだ。 コンサート良かったよね? 」

『 はい。 想像以上でした 』

「 でも、あれじゃない? やっぱり、ワーグナーとかの方が良かったんじゃない? 」

『 いいえ、そんなことないです。 僕もチャイコフスキー好きだし、それにバレエも見れたし 』

「 そうだよね。 あの映像、良かったね 」

『 はい、とっても 』

 

言葉を選んでるような間があって、遠慮がちに直樹が言った。

 

『 ・・・また、・・・チャイコフスキーじゃなくても、ご一緒したいです 』

「 ホントに? 」

『 はい 』

「 じゃ、また誘っていい? 」

『 はい、ぜひ。 ・・・コンサート以外でもなんでも誘ってください 』

「 ホントに誘うよ? 」

『 はい 、いつでも 』

「 うん 」

 

さらにちょっと沈黙があって、直樹が言う。

 

『 でも、あのう、・・・今回、誘ったのは僕ですよね? 』

「 あ、そうか。 そうだね。 ハハハ、原峰くんが俺を誘ってくれたんだ 」

『 そうです。 僕が榊さんを誘いました 』

「 そうだった、そうだった。 俺が誘ってもらったんだった 」

『 はい 』

「 じゃ、また誘ってよ。 俺も誘うからさ 」

『 はい、喜んで 』

「 ハハハ・・・ 」

 

・・・再び、沈黙。

 

・・・どうもさっきから、直樹はなにかを切り出せずにいるようだ。

 

タバコ屋の店先に設置してある灰皿が目についた。 良介がタバコに火をつける。

 

 

『 ・・・でも、榊さん、あのう・・・奥さんとは、・・・出掛けたりしないんですか? 』

 

「 えっ? ・・・あっ、・・・ゴホッ・・・ゴホッ 」

 

半日ぶりのタバコにむせる良介。

 

直樹の口から飛び出した、❝ 奥さんん ❞  にびっくりしたのだ。

 

・・・ゴホッ・・・ゴホッ・・・・・・ゴホッ・・・ゴホッ・・・