第 二 章    青 春 の  贈 り 物  -2-

 

さて、・・・直樹・・・。

 

良介にしては、順調だ。 満足している、つもりだが・・・。

 

平日は直樹のスタンドの向かい側の歩道を歩いて帰る。 直樹が帽子を取って会釈してくれる。 良介も手を上げ、お互い微笑む。

土日は一人でドライブし、気が向けば平日の夜も運転した。

給油するのは土曜日に決めている。 客が混む時間帯を避ければ、必ずと言っていいくらいの確率で直樹が事務所から出て来てくれた。

 

半袖からのぞく直樹の腕。 色が白い。 細身ながら、筋肉が発達している。 その筋肉も、欧米人に見られるような、流れがわかる筋肉で、なんとも色っぽい。

直樹の腕に見とれて、良介、思わず言ってしまった。

「 半袖、似合うね 」 瞬間、我ながらバカなことを言ったと後悔する。

『 ありがとうございます 』 直樹がサラリと答えてくれたのでほっとする。

 

一度、給油中に直樹と他のスタッフが交代した。 外国人が道を尋ねていると言う。 旅行者らしき男女に、直樹が笑顔で応対している。 中年の女性がガイドブックを開き、直樹が右手で方向を示す。

「 チーフ、英語ペラペラなんですよ。 アメリカに留学もしてたそうです 」 交代した明くんが言った。

『 そうなの、かっこいいね 』

なるほど。 ・・・公園で初めて直樹と話した時、“ いい一日を ” と言ってくれたのを思い出す。

 

 

給油も回を重ねると、良介にもゆとりが出来てきた。

スタンドには洗車の設備もあって、自動洗車が終了するまでの間、ドライバーは事務所の中で待っているようだ。 新聞を読んだり、 スタッフと雑談したりしている。

良介、ひらめく。 これだ !! 洗車を頼めば、給油よりも長い時間直樹といられるぞ、よし。

 

たいして汚れてもいない車の洗車を頼む。

ところが・・・。

直樹が洗車の操作からなかなか戻って来ない。 洗浄が終わっても来ない。 ボディに残った水滴を丁寧に拭き取っている。 でも、もうすぐだな。 手があいたら来るだろう。

ところが・・・。

引き続き、ワックスがけに取り掛かる直樹。

えっ? ワックスも直樹がやるのか? ・・・俺、失敗か? 時間がかかるようにと思ってワックスも頼んだけど、・・・いつもは若い子がやってるよな、確か・・・。

 

麦茶をいれてくれた明くんが言う。

「 俺やりますって言ったんですけど、いいから休憩してろってチーフが。 チーフ、ホント、俺らにまでやさしいんです 」

・・・そうか、やさしいチーフなんだ・・・。 なら、仕方ないか。

結局、直樹と雑談するチャンスもなく、良介の目論見は外れた。

 

支払いの時、いつもより丁重に礼を言う良介。

「 すごく丁寧にしてもらってありがとう。 ピッカピカで気持ちいいな。 ホント、原峰くんありがとう 」

『 あっ、はい、お待たせしました。 ありがとうございます 』

 

額にうっすらと汗をにじませ、頬を紅潮させている直樹。 近くで見るとドキっとするほど美しい。

良介の心のこもった言葉が嬉しかったのか、自然な微笑みを浮かべている。 なんとなく恥じらっているようにも見える直樹のきれいなその頬に、ああ、手を伸ばして触れてみたいな・・・。 そっとやさしく触りたい・・・。  

雑談はかなわなかったけれど、いつもの給油だけでは見られない直樹が、今、目の前に居る。

例えて言えば、これまでの直樹には良介の目や耳が反応していた。

だが今日の直樹は、良介の背骨のあたりから尾骶骨、さらに股間にまで、ズンと響いて来る。

・・・ジェントルマンな良介とて、やはり39才のナマミの雄なのだ。

  

かわいい直樹を力いっぱい抱きしめたい。 

 

直樹の誘導でスタンドをあとにする。

 

 

直樹との関係・・・。

良介の、頭、心、気持ち、は満足している。

ただ、良介のからだは、不満のようだ。

もっと先へ、もっと深い関係へ、進みたくて、言うことを聞いてくれそうにない。

 

・・・またもや、宏先輩の声が聞こえる。

 

『 良介、お前、なにやってんだ? 』