第 一 章    ま だ 見 ぬ  恋 人 よ  -20-

 

疲れている。 何も考えたくない。

 

・・・コーヒーをいれよう。

 

コーヒーを飲みながら、このところ中断していたジグソーパズルに取りかかる。

プラハ城をバックにしたカレル橋の遠景。 良介は、チェコやハンガリー、ポーランド辺りが好きだった。 図書館から写真集や紀行物、歴史の本などを借りてくる。

 

ラフマニノフをかけよう。

悲し気だけど、その悲しみを肯定して受け入れるような、凛とした響きが好きだ。

 

コーヒーと、 プラハと、 ラフマニノフ。

マンションにひとりっきり。

 

・・・しばらくしてようやく、良介の顔にいつもの穏やかな表情が戻ってきた。

 

 

CDを替える。

【 くるみ割り人形 】  特に ❝ 花のワルツ ❞ が大好きな良介。

 

その美しいメロディー、心地よいリズム、洗練されたハーモニー。

ハープに始まる見事なオーケストレーションが、奇をてらうことなく展開されていく。

上品なときめきと、夢の世界にいるような躍動感が、良介の心に湧き上がってくる。

 

 

♪ ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ ♪

 

明るくて軽やかな曲は、まるでチャイコフスキーからのメッセージのように聞こえる。

 

ロシアの偉大な天才作曲家が、時空を超えて、良介の心にやさしく寄り添い、手を差し伸べてくれる・・・。

 

【 良介、なあ良介。 ただ ❝ 愛する ❞ 、それでいいんだよ。 それで、いいんだ 】

 

・・・良介の澄みきった美しい心ゆえに、天才の魂も共鳴するのだろうか・・・。

 

 

♪ ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ ♪

 

・・・直樹、待っててくれ。

 

♪ ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ、 ズンチャッチャ ♪

 

・・・俺さ、 ・・・俺、 ・・・直樹と愛し合いたい・・・。