しゃっくりとオペラ | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

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けれど一方で、言葉や愛がまったく立ち向かうことのできない不安や困難も、
また、存在しないのではないか……僕は、今そう思っている。
『100万分の1の恋人』榊邦彦(新潮社)

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夕食を終えたとき、突然、「しゃっくり」が出始めました。

妻さんが、すぐに、

「ほら、オペラ、オペラ」 

と言います。
(以前のブログに、「オペラを歌うと、しゃっくりが止まる」という話を書きましたので、そちらを参照してください。)

さっそく、オペラ風に、胸を張って、高らかに歌い上げてみます。
メロディーは、基本的にいい加減。
思いつくままに、歌いあげました。

しかし、残念ながら、歌い上げている途中で、

「ひっく」

と、しゃっくりが出てしまいました。

「オペラ、効かないね」

と、残念そうな妻さん。

何を思ったのか、突然、クッションを、僕のお腹に投げつけ始めました。

「シャックリ止まれー、シャックリ止まれー」

妻さん、叫びながら、僕の腹部にクッションを投げつけ続けること、十回ほど。

もちろん、ちっとも効きません。

「クッション投げも効かないか……」 〈当たり前だろっ〉 

クッション投げをあきらめた妻さん、

「うーん。よしっ、分かった」

と、今度は、冷たいお茶の入ったコップを僕のお腹にあてたかと思うと、

「ひやし、ひやし、ひやし」

と、呪文のような、歌のような、謎のフレーズを呟きます……。

もともと根拠のないことばかりですが、いよいよ混沌としてきました。

もちろん、「ひやし、ひやし、ひやし」でも、シャックリは止まりません。

「うーん。今日の夫さんのしゃっくりは強力だな」

腕を組んだ妻さんは、「たぶん、オペラの曲がいけないんだ」と言い出しました。
どういう思考回路なのでしょうか。

「アドリブで適当に歌うからよくない。この間のように、 『トゥーランドッド』 を、歌うのがいい」

まあ、ここまで来たら、なんでもやってみようと、僕は、高らかに、『トゥーランドット』を歌ってみました。

「♪ たらら、らら、らーら、ら~~~」 

気持ちだけは、ポール・ポッツ気分です。

一分ほど、歌い終わって……

……沈黙、沈黙、沈黙……

なんと、みごと、シャックリが止まったのです!

いやあ、すごい、すごい。

なんということでしょう。

妻さん、ありがとう。
『トゥーランドット』、ありがとう。

最後に、妻さん曰く、

「シャックリも歌を選ぶんだよ」

だそうです。