Yさんのギター【榊邦彦’s OFFICIAL WEBSITEより】 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

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けれど一方で、言葉や愛がまったく立ち向かうことのできない不安や困難も、
また、存在しないのではないか……僕は、今そう思っている。
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 文化祭のライブで、Yさん のギターを弾いた。ギブソンのスタンダードの黒。

 

 15年近く、一緒にエレキギターを弾いてきたが、Yさんは、一年前に亡くなった。

 

 今回、ギターを弾くにあたり、Yさんのギターの弦を張り替えた。張り替える前、やや錆びかけた古い弦を爪弾いてみた。高音弦については、少し弛んでいるだけで、ほぼチューニングがあっていたが、四弦・五弦・六弦の低音弦は、どれもかなり弛んでいた。 

 

 ……すぐに気付いた。これは、Yさんが、ギターに負担をかけないように、弛めておいたものだろう。

 ベースなど、弦のテンションが強いものは、ネックの順反りを避けるため、通常、仕舞 うときに弦を弛める。けれども、ギターでそこまで気にする人はいないし、僕も弛めて仕舞ってはいない。

  

 けれど、Yさんは、いつもテンションの強い低音弦は、ちゃんと弛めていたんだ……。ペグ(糸巻き)を廻しながら、Yさんがチューニングする指の感触が、僕の指にも届いてくるようだった。

 

 弦を張り替えて、チューニングを終えたYさんのギターは、とても弾きやすかった。ライブでは、数年前にYさんが弾いた曲を、僕がYさんのギターで弾いた。もっとも難しいソロの入った曲だったのに、その日、一番の出来だった。