奈良の都を歩く【榊邦彦’s OFFICIAL WEBSITEより】 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

けれど一方で、言葉や愛がまったく立ち向かうことのできない不安や困難も、
また、存在しないのではないか……僕は、今そう思っている。
『100万分の1の恋人』榊邦彦(新潮社)

榊邦彦の公式ブログです。
ご連絡はこちらまで
evergreen@sakaki-kunihiko.jp

良の都を歩く 200

奈良への出張での出来事。

 

出張二日目、6月7日は歩きに歩いた。

猿沢の池脇のホテルから、まずは志賀直哉旧へ。小説の神様のパワーにあやかろうかと思ったのだが、週に一度の休館日(木)にあたっており、門を眺めるだけに終わってしまう。

こうなったら足を伸ばすしかないと覚悟を決め、まずは、新薬師寺まで移動する。新薬師寺は、「新」という名前とははるか遠い佇まいの古の風の寺。住宅街の中にひっそり佇んでいる。

参拝を終えると、田園風景の中を白毫寺まで歩く。途中の細い生活路地も昭和にタイムスリップしたようだ。山の中腹にたった白毫寺も、静かな古寺で清涼とした感であった。庭からは、奈良市内が一望できる。

白毫寺で僅かに休憩した後、そこからはまた歩き歩き歩き。まずは、白毫寺から志賀直哉旧邸まで戻り、そこから春日大社に抜けるささやきの小道を歩く。

頭上から降る木漏れ日が心地よい。ささやきの小道という名前のとおり、足音と鳥のさえずりしか聞こえない静かな道だ。途中、絵を描いている50年輩の男性にすれ違った以外は、まったく人とすれ違わなかった。

ささやきの小道を終え、春日大社を参詣して、二月堂・三月堂と定番の奈良公園散策コースを行く。二月堂の休憩所で軽い昼食を摂ると、正倉院を廻って、東大寺を参詣。もう何度目の東大寺だろうか。何度来ても、大仏の大きさに圧倒される。

一番の思い出は、大学生のときに、幼馴染の三人で行った奈良旅行だ。大仏の鼻の穴の大きさと同じだという柱の穴を、親友のAがなんとか通り抜けたのを思い出す。東大寺の参詣を終えると、南大門には抜けずに、少し手前を西に曲がり、依水園の庭園を訪れる。暑い日射しの中、歩き続けた疲労を癒すような、静かな庭園である。春日山を借景した庭の趣に心が安らぐ。

寧楽美術館を見た後、依水園隣の吉城園も訪れる。苔の庭が素晴らしかった。紅葉の季節に訪れたら、また違った様子だろう。依水園・吉城園、両園とも、時の流れに人の手が優しく加わった庭だった。

吉城園を出ると、大通りに出て、東大寺南大門へ。中間ゴールが南大門というのも、イレギュラーだったかもしれない。これで、ほぽ、奈良公園の東から北、西へと一回りした感じだ。ここまでで、15キロ程歩いた計算になる。

南大門周辺では定番の鹿と戯れる。せんべいを求めて、頭を垂れる鹿に苦笑する。 南大門の駐車場からバスに乗車し春日山山頂までドライブ(この日、唯一の徒歩以外の移動)。

山頂周辺にも鹿がいたが、こちらの鹿は近寄るとしっかりと逃げる。人に媚びない鹿のプライドのようなものを感じた。春日山の急斜面にも、何匹もの鹿が見える。同じ奈良の鹿でも、随分と違う生活をしているものだ。

春日山から柳生街道の散策コースを行く。山道8キロほどの難コースだ。世界遺産の原始林の中を二時間ほどかけて歩く、歩く、歩く。主に下りだったものの、朝からの歩きの連続で、膝・腿への負担がきつい。

ようやく、住宅路に出たときにはさすがにほっとした。住宅路をまっすぐ下って、朝に来た新薬師寺の傍へ。ここまで来たら、バスには乗るまいと思い、最後の三十分ほどを徒歩で、猿沢の池まで。朝九時から、夕方五時半まで、ほぼ歩き通しの一日であった。 

 

ブログに書くのなら、デジカメを持っていくのだったと、いまさら、後悔している……。