祖母のこと | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

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けれど一方で、言葉や愛がまったく立ち向かうことのできない不安や困難も、
また、存在しないのではないか……僕は、今そう思っている。
『100万分の1の恋人』榊邦彦(新潮社)

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 不意に祖母のことを思い出した。

 十七年前に九十三で亡くなった。
 僕は、事情あって、父にも母にも育てられなかったから、祖父が父代わり、祖母と伯母が母親代わりだった。

  ……

 妻さんと、お弁当の話になった。
 二男が高三なので、妻さんのお弁当作りもそろそろ卒業だ。

  ……

 僕のお弁当は、中学・高校六年間、ほぼ毎日、祖母が作ってくれていた。
 あらためて、妻さんと、祖母の年齢を逆算してみる。

 今更、思い知る。
 祖母が僕のお弁当を作ってくれていた六年間は、七十代後半から八十代前半にかけての時期だった。

 妻さんが、「すごいな」と一言もらした。

  ……

 十代のころは、そんなこと一回も思わなかった。
 自分が四十代になって、改めて有難さを痛感する。
 七十代・八十代で、毎日、朝早く、お弁当を作ってくれていた。

 ひ孫が見せられて良かったと思う。
 お祖母ちゃん孝行になった。

 書店に並んだ僕の小説も読んでもらえればよかったけれど、間に合わなかった。