第40回 日展 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

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けれど一方で、言葉や愛がまったく立ち向かうことのできない不安や困難も、
また、存在しないのではないか……僕は、今そう思っている。
『100万分の1の恋人』榊邦彦(新潮社)

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 本日、第40回の日展に行ってきました。
 
 一番のお目当ては、大友義博さんの絵。
 バンド仲間(大友さんは、ドラマー)で、僕の小説についても、いつも励ましてくれます。

 大友義博さんは、今年は、新審査員としての出展。僕より二歳年下という若さなのに、審査員なんて、凄いことですね。

 大友さんの絵は、たくさんの絵の中でもすぐに分かります。色遣いといい質感の醸し出し方といい、とてもやわらかくて、個性的です。今年も、すぐに分かりました。
 「寧日」という画題で、母子が一枚の白布でつながっている温かい絵でした。
 いつもの温かい世界観に加えて、今年の作品は、どこか神秘的な趣も感じられました。日常の中から神秘性をすくい上げたような絵です。窓から射す日差しが母子を照らし出していて、崇高な世界を作り上げていました。

 そして、もう一人お目当ては、木原和敏さんの絵。
 細密な表現力は、圧倒的です。写真とは比べ物にならないほどのリアルさ。肖像画とは比べ物にならない物語感。人間の存在まで描きぬきそうな再現力です。「ジャスミンの壁」という画題で、今年も素敵な女性のたたずまいを見せてくださいました。

 あと、森田茂さん「黒川能」にも圧倒されました。101歳の魂に、言葉もありません。
 人間の持つ業を捧げるように舞う姿……それを怖いほどの濃密な筆力でキャンパスに塗りこんでいます。

  ……

 お目当ての作品ももちろんですが、毎年、日展に出かけると、芸術を志す方々の思いの真っ直ぐさに心を打たれます。
 大変、申し訳ないことに、ほとんどの作品は、その前に立ち止まること数秒です。
 金銭的なものを生む作品もほんのほんのわずかでしょう。
 それでも、そこに「作品がある」ということ。
 純粋に「あるためだけにある」ということ。
 そのことの真っ直ぐさに、いつも心を洗われます。

 そして無性に、小説を書きたくなって帰ってくるのです。

 大変、よいものを見させていただきました。