大きなのっぽの古時計 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

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けれど一方で、言葉や愛がまったく立ち向かうことのできない不安や困難も、
また、存在しないのではないか……僕は、今そう思っている。
『100万分の1の恋人』榊邦彦(新潮社)

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生まれ育った生家にあった古時計。

まさに「大きなのっぽの古時計」という趣だったが、この二十年ほど、養母の居宅で、止まったままだった。
あれこれ時計店に持ち込んで修理を試みたのだが、時を刻むことなく、ただの飾りと化していた。

今夏、ひょんな流れで、銀座三越の時計修理サービスに相談したところ、遠路、大宮まで見に来て下さり、三か月かけて、修理してくださった。

修理を終えた時計が本日納品。久しぶりに聞く振り子の音も懐かしいが、何よりも、正時に時の数を打っていた、鐘の音が聞きたい。
5時59分、老母と妻と僕とで、時計の前に立つ。
6時寸前、機械の中で、何かがカチっと動いた音がすると、ゼンマイが戻り始める音が続く。
それだけで一気に記憶が数十年前に飛んだ。息を吞んで待つと、古時計が鐘を打ち始めた。記憶の中の音と一ミリも変わらない。
一つ、二つ、三つ……遠い記憶の底にまで響くように、あの頃のままの音で、鐘の音が響く。
幼い僕が、生家の玄関にペタンとすわって、鐘の数を数えているような気がした。

銀座三越さん、ありがとうございます。

IMG_5762.jpg

(写真は、鳴り始める寸前、、、)