こういう展覧会,良いなぁ。観ていてイメージも摑み易いし,何より楽しくなりそうです(ღˇ◡ˇ*)♡

 僕は常々「美術というと絵画のことだと思われる」というお話をしているし,これは大筋で皆様にも「なるほどね」と感じて頂けるお話だと思います。しかし日本でもっとも盛んに販売されている美術品は実は絵画ではなく,陶芸です。一般的に「日本人は作品を鑑賞するだけで購入しない」などということが言われますが,陶芸に関してはこの指摘は全く当て嵌まりません。そもそも陶芸については「これは美術品だ」という認識すら持たず,何となく鑑賞しては「素敵だな」と感じ「手元に置きたい」と感じて購入していく人すら稀ではないのだとか。そういえば,僕の知人にもまさにそういう人が居ます。或る時僕に「打越君は美術好きだそうだが,美術鑑賞を楽しめるというのは羨ましいね。自分は文化に縁が無いのかな,観ていても楽しいと思えないのだ」などと話し掛けてきました。僕が「そういう君は陶芸の愛好家でコレクターではないか。僕に言わせれば君こそ,僕などよりもずっと美術を愛好していると思うよ」と答えると「うん(・_・?) たしかに陶芸は観ていて飽きないし,手元に置いて嬉しいとも感じるが・・・」「そうか,陶芸も美術なのか。ということは,私も美術愛好家の端くれということになるのかな」などと何やら妙なことを言っていました。そもそも美術を愛好しているという意識すら無しに美しい陶芸作品を観ては心を喜ばせ良いものを手元に置いている彼こそ,さぁ今から美術鑑賞をするぞと構えて作品に向き合っている僕などよりもずっと素直で熟達した美術愛好家だと僕は思っております。そもそも日本人の陶芸好きは茶道という文化の影響の賜物ではないかなどという指摘もありますが,お茶会に集う人々もまた「これは美術品だ」「私は今,美術鑑賞中だ」などという気構えを持たずにお茶椀に触れてはその見事さに心動かされているのでしょう。自らが美術好きだとは気付いていなかった友人はまさにそういう自然な思いの持ち主といえるでしょうし,僕もまた一日も早くそのような心持で美術に向き合えるような見巧者になりたいものだと願ってしまいます。

 とはいえ「さぁ,美術鑑賞をするぞ」と構えなければなかなか美術鑑賞の出来ない僕のような者にとっても,陶芸作品に触れるのが大きな喜びであることは何の違いもありません。陶芸作品には色々なものが存在しますが,僕の好みを申し上げると鑑賞以外の目的には使用出来ない作品よりも,皿や酒器・茶碗などの実用性を持つもののほうにより強い魅力を感じます。更に言えば皿などであっても鑑賞のみを目的に制作される作品も存在しますが,実際に使用することを前提にした作品のほうが更に僕の好みに合致しています。理由は判りませんが,或いは僕にとって陶磁器というのは何にも増して食事に使うものであり,陶磁器を鑑賞する際にも「この作品でどんなものを頂くと美味しいかな」というイメージを鑑賞の助けにしているからという可能性は非常に高いと思います。実際,陶芸を観ていてもっとも楽しく感じるのは,お猪口やお茶椀を観ている時です。「このお猪口でお酒を飲んだら,どれだけ気持ち良く酔うことが出来るだろうか」「このお茶椀でお茶を頂いたら,きっと素晴らしい寛ぎのひと時になるに違い無い」などなど。
 これに対してお皿は少々難しい。常識で考えればお猪口で頂くのは日本酒・お茶椀で頂くのは抹茶ですが,お皿の場合には「これにどんな食べ物を載せれば良いか」というところから想像を始めなければなりません。無論,そのような想像もお皿を鑑賞する楽しみの一つではあるのですが「しばらく眺め続けていても何を載せれば良いか思い付けず,背中に脂汗が流れる」などということも無いではありません。絵画を鑑賞していて「良い作品だな」と思ったのは良いが何がどう良いのか言語化しようとしてなかなか出来なかったときと同じく,自らの鑑賞眼の不足を実感させられる瞬間です。とはいえ僕の不勉強と無能を棚に上げて申し上げると「作者はそもそも,何を載せることを前提にこのお皿を制作したのか」などと文句の一つも言いたくなるような作品も無いではありません。

 そんなことを考えていた矢先,こちらの記事に出会いました。「冷たい麺のうつわ展」という,文字どおり冷たい麺を食べるのに相応しい陶製品の展覧会が開催されているのですね。こちらの展覧会に展示されているのは秋谷茂郎・古川桜両氏の作品で,秋谷氏は主にリンゴ釉を使った淡いグレー色や奥行きがある渋めのブルーの色合いを持ち指で化粧土を落として流れるようなラインを描いた「青彩指描」の作品を,古川氏は額に入れた絵のような雰囲気を持つ植物の絵付けのある作品を出展されているということです。こちらの展覧会は会場の「器と工芸 なかつか」(長野県松本市中央)店主の錦織康子氏の企画によるもので「料理を盛ったときにおいしそうに見える器を作る2人にお願いした」ということです。このような文章での説明だけでは具体的にどのような作品なのか今一つ判り難いところがありますが,記事に添えられた写真を観るといずれもいかにも涼しげで,これは夏の暑い季節にピッタリの優れた作品だと感じさせられます。冷たい麺類を頂くのに最適というお話もスッと納得の行くところですが,もし何も言われずにこちらの作品に触れてその発想に至れるか。僕にはなかなか思いつけないような気が致しますし,逆に「冷たい麺のうつわ」と銘打たれていることで「この作品は何に使ったら良いだろうか」という鑑賞眼を厳しく問われる,そしてしばしば僕の能力には余りがちな困難な判断を回避して作品そのものの美しさにダイレクトに触れられるような気が致します。先ほどの言葉を借りれば,まるでお猪口やお茶椀に触れた時のような感覚,イメージの摑み易さ故の賜物と申し上げればよろしいでしょうか。

 こちらの展覧会は2024(令和6)年7月2日まで,先述の「器と工芸 なかつか」での開催です。とても楽しそうな展覧会ですが,残念ながら僕には足を運ぶことは叶いそうもありません(。・_・。)。oO しかしこちらの記事で秋谷茂郎氏と古川桜氏というお2人の陶芸家と,また錦織康子氏というギャラリストの存在を知ることが出来ました。いつか秋谷・古川両氏の作品を鑑賞してみたいし,錦織氏の運営する「器と工芸 なかつか」にお邪魔してみたい。そんなことを願っております(ღˇ◡ˇ*)♡



松本・中町のギャラリーで2人展「冷たい麺のうつわ」 料理が映える器、140点