こういう展覧会が開催されるのですね。ヴェネツィアについてもヴェドゥータについても興味があるし,是非お邪魔してみたいと思いますφ(・_・”)

 僕は昔からイタリアに憧れていて,その中でも特にヴェネツィアには是非訪ねてみたいものだといつも夢見ております。恐らくは塩野七生氏の名著「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年」を通じてそうした思いを育んだのでしょう。残念ながら僕はまだ実際にイタリアに行ったことはありませんが,それでも憧れの地であるヴェネツィアの景観については何度も目にしております。現代の写真や映像で見たものも無論ありますが,その大部分は「ヴェドゥータ」と呼ばれる風景画を通して知ったものです。日本でもイタリアンレストランなどに行くとそうした作品が壁に展示されていることも多いので,皆様の中にもご覧になったことのある方は多いのではないでしょうか。
 ヴェドゥータを手掛けた画家は少なくありませんが,その中でも特にヴェネツィアの風景を描いたカナレット(1697~1768)は有名な存在ですね。自身もヴェネツィア出身の彼は街の風景を精緻に美しく描き,特にイギリスで好評を博しました。当時のイギリスには裕福な若者が社会に出る直前に長期間の海外旅行に赴く「グランド・ツアー」という風習があり,その旅行先としてイタリアはフランスと並ぶ人気を誇っていました。まだ写真の存在しなかった当時,ヴェネツィアに滞在した若者たちはお土産に彼の作品を好んで購入したと伝えられています。また同地を訪問した者以外にも,ヴェネツィア在住のイギリス商人であるジョゼフ・スミスを通じて彼の作品が大量に販売されたということも伝えられています。恐らくですが,そちらのルートで彼の作品を購入したのは現代の僕と同様,なかなか海外旅行になど行けない人々でしょう。彼らは風景画を購入して部屋に展示しては「いつか行ってみたいなぁ(ლ˘╰╯˘).。.:*♡」などと夢を広げたのでないでしょうか。

 さて,カナレットのヴェドゥータ作品について,芸術としてはどのように評価されるべきでしょうか。「確かに高度な技術で精密に描かれてはいるが,ただ風景を画面に移し取っただけではないか」などという評価も存在するようです。カナレットがヴェドゥータ制作に際して「カメラ・オブスクラ」というピンホールカメラのような装置を用いて投射された景色をなぞることで下絵を作っていたらしい(確証はありません)ことを知れば更に「それが芸術なのか」という疑問を抱く人が生じるであろうことは確実でしょう。しかし,それらはカナレットの作品の芸術性を否定する根拠にはならないと僕は考えます。
 まず「風景を画面に移し取っただけ」というのは作品としての評価を低める理由にはなりません。日本美術の分野では,やはり京都の風景を屏風等に描いただけの洛中洛外図というものが高い評価を受けていますね。どちらも同じようなものです。仮にヴェドゥータの価値を否定する者が一方で洛中洛外図を賞賛しているのでは,それは単なる二枚舌でしかありません。無論「ヴェドゥータも駄目だし洛中洛外図も駄目だ」と云えば矛盾は発生しませんが,そもそもそれらを駄目と考えるべき何らかの理由が存在するのか。ヴェネツィアであれ京都であれ,或いは他の場所であれ,世の中には人に感動を与える美しい景色が幾つも存在します。それらを高い技術で絵画の画面に落とし込み,実際の景色を観た際と同レベルの感動を与えることの出来る作品はそれ自体が優れた芸術でしょう。これは絵画に限らず,風景写真などでも同様の話です。
 また,カナレットがどのような道具を用いて作品を制作したかも出来上がった作品の良し悪しとは何の関係もありません。たしかに「写真を基に描いた作品は,実物を前に描いた作品よりも迫力に欠ける傾向がある」ということがよく言われますし,それは恐らく事実なのでしょう。しかしカナレットの使ったカメラ・オブスクラには撮影機能が無く装置に景色が表示されるだけなので,これを使う場合にも画家は描く対象のある現地に赴かねばなりません。その際には当然ながら肉眼でも対象を観察しますから,必要に応じて作品制作の際にはそうして得た情報も適宜用いていることでしょう。また仮にカメラ・オブスクラを用いた下絵のみで作品を制作していても,結果として良い作品になれば何ら問題はありません。上述の写真を基に描いた作品に関する話もあくまで「傾向」に過ぎず,実際には高名な画家の中にも写真を基に優れた作品を制作している方が何人もいらっしゃるということを僕は聞いております。

 近くカナレットの作品を集めた日本初の展覧会「カナレットとヴェネツィアの輝き」が国内各地を巡回すると聞き,僕はヴェネツィアへの憧れを満たすため,そして上述の意見の妥当性について検証するために是非訪ねてみたいものだと思っています。なおこちらの記事によるとヴェネツィアの風景というのはやはり大勢の画家を刺激する画題であるようで,カナレットの次の世代のヴェネツィア人画家は勿論のこと,イギリスの画家たちもヴェネツィアの風景を描いているのだとか。日本において既に洛中洛外図が多数制作されているにも拘らず,東山魁夷など現代の日本画家たちもまた京都の風景を描いているのと同様の現象でしょう。今回の展覧会ではそれら後世の画家たちがヴェネツィアの風景を描いた作品や,更にはクロード・モネの「パラッツォ・ダーリオ,ヴェネツィア」なども併せて展示されるということで,それら作品とカナレット作品の共通点や相違点をしっかりと観てみたいものだと思います。
 こちらは巡回展ですので国内各地で観賞することが可能ですが,関東では東京・新宿のSOMPO美術館で2024(令和6)年10月12日~12月28日の日程で開催されるということです。ちょうど芸術の秋に当たる季節ですね。今からですと少々先のことになりますが,是非実際に同展を訪ねてしっかりと鑑賞し,美術に関する知識・見識を深めたいものだと今からとても楽しみにしております。



風景画の巨匠カナレットの展覧会が静岡県立美術館で - ヴェネツィアの風景画が一堂に、モネに至る展開も