押忍,次は関東にも来てくれよ(*・ω・)ノ

 版画というと,小学生の頃に図工の授業で板を渡されて木版画を制作したことがあります。お絵描きや工作の好きな子たちは細かい下絵を描いてそれを巧みに彫刻刀で削って版を作っていましたが,不器用な上にそもそも興味の無かった僕はそうではありませんでした。ただ線だけのお粗末な下絵を描き,それをなぞるように彫刻刀で彫っただけのお粗末な版を作って終わり。無論,こういう手抜きの結果として僕の版画は「真っ黒に塗りつぶされた画面に何本かの線を引いただけ」という実にお粗末な代物にしかなりませんでした。日曜日の父親参観に来た両親に「お友達を見習ってもう少し真面目に取り組むように」などと苦言を呈されたものです。
 もっとも,小学校の版画の授業が僕にとって何の役にも立たぬものだったのかといえば,そうではないと考えています。木版画の制作技術は習得出来なかったし制作過程を通じて会得べきだった根気も身に付きませんでしたが,版画の制作というのがどれほど繊細で困難な作業であるのかは理解出来ました。僕は今,美術鑑賞に際して古今東西の版画作品に触れることも少なくありません。現代の作品でいえば多くはファインアートですが,テキスタイルの分野においてもシルクスクリーンという版画の技法で制作された作品が存在するので,その頻度はかなりのものと言えるでしょう。それらの作品に出会うたび,僕は細かな描写に目を向けては作品への畏敬の念と作者への尊敬の思いを感じないではいられません。そうした思いに至ることが出来るのも少年の日に自ら版画作品の制作を行ったからだと僕は考えております。

 さて,古今東西の版画作品と申し上げましたが,それらの中でも僕が最も頻繁に触れているのが江戸時代のわが国で制作された数々の浮世絵版画です。現代でも浮世絵の人気は高く取り扱うお店も少なくない上に,東京には「すみだ北斎美術館」や「太田記念美術館」といった浮世絵主体の美術館も所在することにもよるものでしょう。また僕は舞台芸能に関心があって最近は歌舞伎について色々と知識を身に付けようと心掛けていることも,結果として浮世絵に触れる機会の増加に繋がっているのかなとも感じます。そんな作品に触れていると「江戸の人々もまた僕と同じように優れた美術作品(当時この言葉はまだ存在しなかったようですが)に触れて楽しんだり感じ入ったりしたのだな」と,遠い昔の人々が何だか身近な友人であるかのように感じられてしまうことも稀ではありません。趣味を同じくする人への親近感を覚えるのは何ら不思議なことではありませんが,そんな思いで過去の人々とも繋がれるというのはとても嬉しく喜ばしい思いです(ლ˘╰╯˘).。.:*♡
 これまでそうした版画というのは,江戸やその近辺で制作されたのだとばかり思っておりました。事実,喜多川歌麿や東洲斎写楽の浮世絵を出版した蔦屋重三郎は江戸の版元でしたし,葛飾北斎やその娘の葛飾応為なども江戸に住んでいました。そのため僕は今まで「浮世絵とは江戸,つまり現在の東京で発展した美術」だと信じて疑いませんでした。しかし今回2024年5月23日から6月23日まで京都伝統産業ミュージアムで「押忍!! 京版画」という展覧会が開催されるというこちらの記事で京版画というものの存在を知り「あれれれれ?(。・о・。)?」と思っているところです。

 考えてみると東京一極集中が進んだと言われる現代においてすら関西,特に大阪や京都といった大都市では伝統工芸からお笑いなどの庶民文化に至るまで独自の文化が今も数多く健在ですね。現在においても関西初の優れた文化は少しも珍しくありません。まして江戸時代は現代ほど交通の便は良くありませんでした。まして当時の日本では江戸よりもむしろ大坂こそが経済の中心でしたし,京都は当時の首都で皇族や公家などの伝統文化の担い手の本拠地でもあったわけです。京都においても優れた版画作品が制作されていたとしても何の不思議もありません。こちらの記事によると京版画というのは「絵巻物や舞扇子、調度品、美術品といった宮廷文化や伝統芸能とともに発展してきた」もので「和紙に胡粉・雲母や顔料を重ね、多くの色数を、やわらかに、ふわりと仕上げるのが特徴」なのだそうです。「絵師、彫師、摺師による分業で制作」というのは江戸と同じですね。
 でもこちらの記事だけでは,京版画というのがどのようなものなのか全く判りません。そもそも京版画というのは浮世絵の一種なのか,それとも浮世絵とはまた別の版画なのか。文字で学ぶよりも実際に会場に足を向けて学べということなのでしょうか。

 残念ながら京都は少々遠く,今の時期に訊ねるのは難しそうです。僕としては新たな美術に触れ知識を深めるためにも,こちらの「押忍!! 京版画」には「押忍,次は関東にも来てくれよ(*・ω・)ノ」とお願いさせて頂くことに致しましょう。



ようこそ!京版画の世界へ 京都伝統産業ミュージアムにて「押忍!! 京版画」5/23(木)から