実に興味深い展覧会が開催されるのですね。是非鑑賞にお邪魔したいと思います。

 20世紀を代表する建築家の一人であるル・コルビュジエの名を知らぬ人は居ないでしょう。「名前しか知らないなぁ(・~・´)という方は東京・上野の国立西洋美術館を訪ねてみて下さい。同館も彼の設計した建築です。彼はモダニズム建築の第一人者として知られた人物で「住宅は住むための機械である」という言葉を残した人物ですが,装飾の殆ど無い同館の姿を観てモダニズム建築とはどのようなものなのか理解が叶うと思います。また彼は超高層ビルとその周囲の緑地を組み合わせた「輝く都市」という構想をも提唱していますが,東京・六本木にある六本木ヒルズはこの考え方の深い影響を受けて建設整備されたと言われています。そう考えると,東京はル・コルビュジエの建築について学ぶのに実に好適な場所と言えそうですね。

 そのル・コルビュジエですが,彼は初めから建築家としての教育を受けた人物ではありません。学生時代には彫刻と彫金とを学び,画家として美術活動を開始しました。もっともこの点についてはあまり驚くことではないかもしれません。僕が以前から何度も紹介したとおりヨーロッパでは古来絵画・彫刻・建築の3つを強い共通性を持つ「純粋美術」という捉え方をしていましたし,また現代日本においても多くの美術大学で建築の教育研究が行われているのですから。とはいえル・コルビュジエを「元画家の建築家」として捉えるのも正しいとは言えないようです。こちらの記事によると彼は建築家として成功を収めた後にも画家としての活動を継続して多くの作品を発表していたのですから。
 余談ながら,美術家が複数の分野で活躍するというのは今日においても珍しいことではありません。僕は若手美術家の作品を鑑賞するのが好きで色々な展覧会や美術大学の文化祭などにお邪魔しておりますが,たとえば絵画や建築を専攻する学生さんが見事な工芸作品を制作して展示しているなどといった事例をよく見掛けます。勿論それは美術家の真剣な努力の賜物であるのは当然ですが,一方で「美術の才能を持つ者にとってジャンルを超えて活動するのは決して不可能なことではない」という事実を証明するものであることも間違い無いでしょう。ル・コルビュジエもまた溢れんばかりの美術の才能を持ち,かつ複数のジャンルでの活躍を可能にするだけの努力を重ねていた人物の一人だったということなのでしょう。

 今回,画家としてのル・コルビュジエに注目した展覧会について知りました。東京・虎ノ門の大倉集古館で「大成建設コレクション もうひとりのル・コルビュジエ ~絵画をめぐって~」という企画展が開催されるということです。大成建設株式会社というのは云うまでも無く日本を代表するスーパーゼネコンの一つで,その発祥は大倉財閥です。「建設会社がル・コルビュジエのコレクションを持っていて,発祥を同じくする美術館で展覧会を開催する」ということからも,思わず歴史に思いを馳せてしまいますね。
 紹介されている彼の絵画作品を観ると,一見キュビズムのようにも見えますが曲線の柔らかさなどがキュビズムとはまた一味違った雰囲気を漂わせています。記事によると彼はキュビスムを乗り越えることを試み,幾何学的表現に機械時代における工業製品と通底する合理性を見出そうと「ピュリスム(純粋主義)」という考え方を提唱したのだそうで,やはりル・コルビュジエにとって絵画は建築家の余技などではなく,彼は美術史において足跡を残した注目すべき有力な画家の1人でもあるのでした。

 こちらの「大成建設コレクション もうひとりのル・コルビュジエ ~絵画をめぐって~」が開催されるのは2024(令和6)年6月25日~8月12日ということで,梅雨の天候不順や夏の酷暑の時期に当たりますし大倉集古館というのはあまり交通の便の良い場所でもありませんが,こちらの展覧会はそんなことをものともせずお邪魔したいと感じさせるだけの魅力に溢れているし,また勉強のためにも是非足を向けたいとも感じます。大倉集古館で画家ル・コルビュジエの作品に触れ,美術に関する知識や見識を深められればと今から楽しみにしております。



ル・コルビュジエの絵画に着目する展覧会、東京・大倉集古館で - 油彩・素描・コラージュなど約130点