40年以上も前のレシピなのに,全然古さを感じさせませんね。本当に良いものは時代を超えるということなのでしょうか(◍•ᴗ•◍)

 僕の子供時代,デパートに行くと「帝国ホテル 村上信夫監修」というレトルト食品などがよく販売されておりました。母に訊ねると帝国ホテルというのは東京・内幸町の超一流ホテルで,村上信夫氏(1921〜2005)というのはそこの料理長なのだとか。早速母にねだって購入してもらうと,当時は今ほどレトルトの技術が発達しておらず地元のホテルで頂く出来たてのお料理ほどの美味とはなかなか参りませんでしたが,それでも当時のレトルト食品としては充分に美味しく「いつか帝国ホテルに行って,村上信夫氏のお料理を食べてみたいものだ」という夢を抱いたものです。
 この夢は後になって叶いました。僕はあまり勉強が出来なかったので大学に入るのに1年浪人をしてしまいましたが,それだけに何とか格好のつく成果を出せたのを祖父母や両親はとても喜んでくれました。「お祝いに何が欲しいか」と問われて子供時代の願い「帝国ホテルでの食事」を希望したところ,何と祖父と両親とそれぞれが時期をずらして帝国ホテルに僕を招いてくれました。その当時の村上信夫氏は帝国ホテルの専務取締役にまで出世していましたがその一方で料理長は兼任し続けていたので,当時も同ホテルのレストランでは村上氏のお料理が提供されていました。1回は通常のレストランで,またもう1回はバイキングレストランで村上氏のお料理を頂き「世界最高の美食を口にすることが出来た(ლ˘╰╯˘).。.:*♡」という大きな喜びを感じたのも,今は懐かしい思い出です。

 その村上信夫氏は帝国ホテルの料理長(後に総料理長)としてホテルのお客さんたちに素晴らしいお料理を提供すると同時に,料理番組に頻繁に出演して一般家庭に美味しいお料理を普及させた功績でもよく知られている人物です。村上氏が第一線で活躍していた時代,お店でお料理を作るコックさんと一般家庭向けにお料理を指南する先生とは別個の職業だと考える向きが多かったそうですが,村上氏はその両方で活躍した人物だったわけですね。もっとも一説によると料理番組への出演を求められた際には同氏も「自分もそっちの分野は素人なのだけれど(  ´・ω・)」と感じつつも断り切れず,それでもいざ実際に出演してみると,判り易い説明に努めることで自らの知識経験を言語化する技術を習得出来,また多くの家庭に本格的な西洋料理の美味を伝えることも出来て大変な意義とやりがいとを覚えたとされています。最初に述べた「村上信夫監修」のレトルト食品なども,本格的な西洋料理の美味しさを一人でも多くの人に知ってもらいたいという村上氏の意欲と希望の現れだったのかもしれませんね。

 こちらは今も続くテレビ番組「きょうの料理」で1980(昭和55)年に5月12日に村上信夫氏が取り上げたハンバーグのレシピです。村上信夫という偉大な料理人によるハンバーグとは一体どのようなものだったのでしょうか。早速見ていくことに致しましょう。
 具体的な調理手順の前に「牛ひき肉は冷蔵庫で十分に冷やしておくことが、おいしく仕上げるコツ」とあるので,手を加える直前まで冷蔵庫に入れておきましょう。そしてまず玉葱をサラダ油少々で炒めて軽く塩胡椒をし,別の器にとって冷ましておきます。次に食パン1枚を水につけ水けを堅く絞って細かくほぐして生パン粉を作りますが,もし生パン粉が手元にあればこれは省略が可能です。そして冷蔵庫から牛挽肉を取り出して炒めた玉葱・ボウルに入れ,生パン粉・卵・ナツメグ・塩・胡椒各少々を合わせて粘りが出るまで十分に練ります。充分に練り上げたら幾つかに等分し,1個ずつ両手でキャッチボールするように手のひらに打ちつけて中の空気を出したら丸形に整えますが,この際に中心を少し窪ませると中まで火が通り易くなるのだそうです。そこまで出来たらいよいよ焼に入ります。まずフライパンにサラダ油を少し多めに入れて熱して温め,丸型に整えたハンバーグ種に小麦粉をつけて手前から向こうへと静かに入れていきます。肉の直下には油が無くなってしまうのでフライパンを揺り動かしながら肉を移動させます。綺麗な焼き色がついたら裏返して更に焼きます。この際「フライパンを向こう側に傾け、油のないところで裏返すとはねない」とあり,こういう点について村上氏が「自らの知識経験を言語化出来た」とお感じになったのではないかと思われます。なお火加減については書かれていません(テレビ番組なので,画面を見れば明らかだったのでしょう)が,別のレシピに「最初は中火,ひっくり返したら弱火」とあるので,それに従おうと思います。焼き上がったら油を捨てて再び火に掛け,トマトケチャップと固形スープの素を水に溶いておいたものとを加えて煮立たせ時々ハンバーグを裏返しながら煮て,ソースにとろみがついたらブランデー(又はウィスキーかシェリー酒)を加えて塩胡椒で味を調え,温めたお皿にハンバーグを載せソースを掛けたら完成です。
 なお,村上氏は「マッシュポテト・鞘隠元のバターソテー・茄子のソテー」の3種類の料理を付け合わせにしていて,それぞれの作り方についても詳しく指南して下さっていますので,そちらも見て参りましょう。マッシュポテトはジャガイモの皮を剥いて2つ(又は4つ)に割って7〜8㎜厚さに切ったものを水洗いして鍋で水から茹で,煮立ったら中火にして竹串がスーッと通るくらいまでになったら湯を捨てて再度火に掛け乍ら鍋を揺すって粉吹き芋にしたものを裏ごしして再度鍋に移し,バター・温めた牛乳を加えて加熱しながら塩胡椒して好みの柔らかさに加減します。また鞘隠元のバターソテーについては鞘の筋を取り塩少々を加えた熱湯で茹でたらバターを熱したフライパンでサッと炒めながら塩胡椒をします。そして茄子のソテーは蔕を落とし皮を剥いた茄子に5㎜程度の切り込みを入れてバター・サラダ油を入れたフライパンで中まで火が通るように揚げて油を切りハンバーグのソースを掛けます。このあたり非常に本格的で,やはり村上信夫氏はフレンチのシェフなのだなと感じさせられますね。

 とても美味しいハンバーグが出来そうです😋🍴💕 ここまで手を掛けた凄いハンバーグが出来たら,折角ですから赤ワインなどと一緒に頂きたいものですね。現代では美味しいワインをスーパーやコンビニなどでも非常に手軽かつリーズナブルに入手出来るようになっていて,この点だけは1980年とは全く異なっています。無論,デパートや酒屋さんで購入するような高級ワインならなお結構でしょう。何かのお祝いごとに村上信夫氏直伝のハンバーグというのはとても素敵なのではないか。僕は今,そんなことを感じております(๑˃̵ᴗ˂̵)



ハンバーグステーキ