当然進めていくべき事柄ではありますが,少々の工夫を合わせ行うことでサービスの低下を最小限に抑えることが可能なのではないか。

 最近「働き方改革」ということが言われ,労働者の休日出勤は勿論のこと時間外勤務についても可能な限り減らしていこうということが日本全体で強力に進められています。これは労働者の健康を維持するためにも,また日々の暮らしを幸せなものにしていくためにも絶対に必要なことといえるでしょう。そしてその必要性が民間企業のみならず官公庁にも共通するものであることは言うまでもありません。凡そ会社員であれ公務員であれ労働者であること,また過労によって心身を苛まれる生身の人間であること,対して適切な休憩や休日が心身の健康に有益であることも全く同じです。最近は「中央省庁の官僚が連日深夜まで仕事している」ということがしばしば指摘されていますが,これは実は地方自治体でもあまり変わりません。自治体もまた国と同様に政策を立案したり予算を編成したり議会対応したりしており,そのために必要な事務処理も中央省庁官僚と地方公務員とで違いがあるわけではありません。また役所というのは膨大な許認可事務を行っておりますが,これも種類こそ違えど膨大な事務処理を必要としているという点では国も自治体も全く同じです。
 その役所における働き方改革の一環として,最近は「窓口受付時間の短縮」というものが見られるようになりました。僕も警察署などで「申請の受付時間は16時30分まで」といった注意書きを見掛けたことがあります。「警察署で(・_・?)」とお感じの方もいらっしゃることでしょうが,実は警察署というのは犯罪捜査や警備取締などのみを行うところではありません。警察というのは運転免許の書き替えや車庫証明・道路使用・風俗営業等に関する許認可を行う通常のお役所でもあります。これは自動車を運転する方であれば「なるほどね」とお感じになることでしょう。
 そうした警察署と同じようなことを,茨城県つくば市が開始するのですね。2023(令和5)年の10月から,窓口受付時間を現行の8時30分〜17時15分から8時45分〜16時30分に短縮することを決定したというニュースを知りました。これは滋賀県大津市の先例に倣ったもので,大津市のほうでは2020(令和2)年度から窓口受付時間を8時45分〜17時25分から9時〜17時に短縮しているということです。

 これは一体どういうことなのか。五十嵐立青つくば市長は「受け付けてから業務終了まで約一時間かかるため、残業を前提にした労働形態になっている。法的にも良くないことだ」と説明しています。警察署や大津市役所における窓口受付時間の短縮も,恐らくは同じ理由によるものでしょう。五十嵐市長の指摘は確かに一理あります。大抵の役所は17時15分,一部の役所は17時30分を終業時間にしています。その終業時間の30秒前に申請されたら,担当者は事務処理のために残業しなければなりません。即日公布の書類は勿論のこと,警察署などでは「申請書類は何日後に許可になります」と事前に定めている場合が多く,確かにこれでは「残業しないと仕事にならない」という状況だといえるでしょう。先にも述べたように警察官を含む公務員も労働者であり,何より生身の人間です。彼らもまた働き方改革の恩恵に浴する当然の権利があることは言うまでもありません。
 反面,これが申請者の側に不利益であることもまた一面の事実です。特に役所が既に閉庁しているならともかく,開庁はしているのに申請出来ないというのは割り切れない思いを抱く人も多いでしょう。「次の日にまた来れば良いではないか」という方もいらっしゃるでしょうが,役所への申請書というのは殆どの場合,事前に申請日を記載する必要があります。記載された日付と実際の申請日が合致していないと受け取ってもらえないことが多く,場合によっては膨大な書類を一から作り直しです。「公務員も同じ労働者なのだから余計な負担を掛けることは是認されない」と知りつつも,これはなかなかに辛いものがあるといえるのではないか。「結果的に市民サービスの質の向上につながる」という五十嵐市長の主張には,やはり無理があると言わざるを得ません。

 では,どのようにすれば良いか。まずは簡単な方法として「書類に記載されている日付が前開庁日であっても受理する」ということの徹底が一案でしょう。考えてみればこれは決しておかしな話ではありません。役所から発する公文書には殆どの場合に日付が記載されていますが,この日付というのは実際に文書を発出する日ではなく,決裁の下りた日です。「役所としてはこの日にこのような意思決定をした」という意味合いの日付ですから,それで良いのです。実際,それこそ終業間近に決裁の下りた書類に文書番号と日付を振ってその日はおしまい,翌日に印刷に回して発送に掛けるなどということは役所においては日常茶飯事です。ならば申請書も同じように考えて「役所に対してこのような申請をすると意思決定した日」が記載されていたとして,それの何が悪いのか。「それでは受理日が判らなくならないか」との心配は無用です。役所では申請書等の書類を受理すると,日付の入った受理印を押印します。たとえば「令和5年6月30日」(金曜日です)という日付の入った書類に「令和5年7月3日」(月曜日)という受理印が押されていれば「申請者は6月30日に申請の意思を決定し,7月3日に役所が受理した」という話になるでしょう。因みに役所同士でやり取りする公文書において,文書に記載された日付と受理日が同じということはまずありません。大抵の場合,書類は数日掛けて郵送されるからです。
 しかしそれでも「今日は受付時間は終了しました。また明日来てね」というのはやはり辛い。ならば「開庁時間中ならば受理だけは行い,審査や処理は翌開庁日以降に行う。書類の交付についても翌開庁日に申請された場合と同じに取り扱う」というのはどうでしょうか。つくば市の例で言えば「16時30分を過ぎて申請された書類に受理印だけは押すが,処理は翌日以降」という形です。この場合,本来は即日公布の書類でも交付は翌開庁日,3開庁日後に交付するというものは4開庁日後交付という形で担当者の負担を減らすのは当然です。実はこれは一部の書類では既に行われていて,たとえば婚姻届等は24時間365日,市区町村役場への提出が可能です。無論,休日や深夜に担当職員が在庁しているわけではないので,宿直者・守衛・警備員(宿直者・守衛は公務員ですが,警備員は公務員ではなく委託業者)が受理印だけ押して預かり,実際の処理は翌開庁日以降に担当者が行います。内容の審査は一切行わない以上,本来はその場で担当者が修正を指示すれば済むようなミスがあった場合でも再度来庁して修正する必要はあります(これは婚姻届の時間外受付においても同様)が,それでも受理だけはしてもらえれば,申請のためだけに再度来庁する手間が無くなることでもあり,申請者側にとってかなりの得になる話ではあるでしょう。

 民間人も公務員も同じ人間である以上,働き方改革の必要性には何の違いもありません。当然ながら,それに伴う役所のサービス低下を我々は甘受すべきでしょう。公務員もまた働く仲間であり,何より同じ人間なのですから。しかしその際にちょっとした工夫を凝らすことで,そのサービス低下を最小に抑えることは充分に可能です。まずは「書類に記載されている日付が前開庁日であっても受理する」ということから始め,次に「開庁時間中ならば受理だけは行い,審査や処理は翌開庁日以降に行う。書類の交付についても翌開庁日に申請された場合と同じに取り扱う」ということを行ってはどうかと思いますが,皆様はどのようにお考えですか。



つくば市、10月から窓口業務 1時間短縮へ 残業解消 サービス向上目指す
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