美術の振興という意味でも,百貨店の維持発展という意味でも,興味深い取組だと感じます(◍•ᴗ•◍)

 大抵の百貨店には画廊があり,そこに行くと優れた美術品が展示・販売されています。この他にお店によってはイベントコーナーを活用して美術展を開催することもありますね。かつて国内の美術館・博物館の整備が十分ではなかった時代には国内外の美術館から貸し出された作品を展示する企画展なども開催されていました。僕も子供の頃,はじめてミレーの「種まく人」を鑑賞したのは都内の百貨店です。こうした施設を訪ねて美術鑑賞を行うのは美術好きな人ばかりではなく,日頃は美術にあまり関心の無いのに百貨店を訪ねて何となく目に留まった作品につられて画廊やイベントコーナーなどに足を運ぶなどといった方も稀ではありません。付言すれば,これは美術に限った話ではありません。百貨店には文字どおり「百貨」つまり様々な品物が置かれ色々なイベントが行われるので,今まであまり関心の無かった事柄について興味を持つきっかけを我々に齎してくれます。僕はしばしば「百貨店は文化の発信基地」と申し百貨店の維持存続を強く訴え続けていますが,それはそういう意味の言葉です。

 今回「埼玉新聞」の記事を読み,伊勢丹浦和店の現代美術ギャラリー「ザ・ステージ♯6アート」における若手美術家支援の取組について知りました。同百貨店には元々7階に画廊とギャラリーがありましたが,それらに加えて2022(令和4)年9月に新たな現代美術ギャラリー「ザ・ステージ♯6アート」が設けられ,そこを拠点に日本画家兼画商である久保田純也氏が若手美術家の育成に取り組んでいるというお話です。具体的に現段階では「展示を核に、美術家のトーク、インタビュー、若いファミリー層も楽しめる企画で若手美術家の知名度を上げていきたい」ということが検討されているようですね。

 これは非常に意義深い取組だと考えます。まず,若手美術家を育成することが次代の美術を振興する上で必要不可欠であることは言うまでもありません。無論,現時点においても美術の才能を持つ若者は少なくありませんが,彼らの多くには知名度が無く,また作品を販売するためのスキルや人脈もありません。展覧会の企画運営についても充分な知識経験を持つ人は決して多くないでしょう。無論「ポテンシャルはあっても知名度もスキルも無く,知識経験も不十分」というのは若き美術家に限ったことではなく,どんな分野で仕事をする若者でも同じです。しかし美術家というのは一部の例外を除くと団体で制作や作品発表を行うわけではありません。多ジャンルで活動する若者であれば会社・官公庁等の団体に所属して活動する中で上司や先輩から指導を受けて人脈や知識経験を身に着けることが可能ですが,美術家の場合にはそれが難しい。右も左も判らぬ中で個展やグループ展を開催してそれらを習得していくというのは大変なことでしょう。この点,画商であると同時に自らも画家である久保田氏の指導を受けることが出来れば,これは若手美術家にとって知名度を上げ人脈を作り展覧会の運営等の技法を今までとは比べ物にならないほど容易かつ早期に身につけることが可能になるに違いありません。
 しかし久保田純也氏の取組がそれら過去の前例に比べて「百貨店を舞台に取り組みを行う」という点で更に高く評価すべきものといえるのではないか。過去においても若手美術家の育成に努めた画商といった人々は存在したに違いありません。通常の画商が才能ある若手美術家の展覧会を開催しても,それは通常,専門画廊などの美術を専門とする場所で行われます。そういう場所にわざわざ足を向けるのは,既に美術を非常に愛好している人だけでしょう。しかし百貨店内の画廊はそうではありません。先にも触れたとおり美術愛好者は勿論のこと,買い物等の別の目的で訪ねただけでそれほど美術には関心の無かった人も大勢足を運びます。そんな人たちにまで「これ,良い作品だなぁ(◍•ᴗ•◍)」と感じてもらえ名前を覚えてもらうことは,若手美術家の将来にとって非常に有益なことでしょう。また以前から申しているとおり若手美術家の作品というのはその質の高さに比べて驚くほどリーズナブルですから,これまでその事実を知らなかった人々の中にも「こんなに良い作品がこの程度のお値段で買えるなら,自分も買おう」と考える方も少なくないことが予想されます。美術家も職業である以上「自らの作品が売れ収入を得られる」ということがこの上も無く重要であることは言うまでもありません。
 そしてこの取組は,逆に百貨店に新規顧客を齎すという点でも有益だと言えるでしょう。最近の百貨店は「顧客は高齢者ばかり」などということが言われたりも致します。こうした展覧会を目当てに,美術を非常に愛好しているが百貨店にはあまり足を運んだことの無い人々が新たに百貨店を訪ねるようになってくれる可能性は非常に高い。そしてその中には,既に若手美術家のファンになっている旧友等の若者も含まれるに違いありません。百貨店の維持発展のためにも非常に大きな効果が見込まれます。

 僕は不勉強で知らなかったのですが,浦和というのは昔から大勢の画家の住んでいるところで「鎌倉文士に浦和画家」という言葉すら存在したほどだったのですね。そんな浦和の地で現代の浦和画家たちをサポートする取組が行われていることは非常に興味深いし,僕も近いうちに伊勢丹浦和店に足を運んでみたいと思っているところです♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪



伊勢丹浦和の新画廊、羽ばたく美術家たち 「鎌倉文士に浦和画家」と言われた時代も 織りなす人間ドラマ
https://www.saitama-np.co.jp/articles/26597/postDetail
https://news.yahoo.co.jp/articles/491f32a59f84b08539972f86d395d485b9155b78