昨今の不景気等を理由とした経済難で大学や専門学校への進学が困難になっている若者の事例を耳にします。そういう人々にとって「まず自衛隊に進み,満期まで勤め上げて予備自衛官になれば学費・入学金の補助を受けられる」という制度は進学の夢を実現させるのに非常に有益な,大変有り難いものに違いありません。是非実現してほしいものです。

 現時点ではどのような制度になるのか不明ですが,こういう制度を作るからには細部まで綿密に設計すべきでしょう。せっかくの新制度に不備があって進学の夢を断念する若者が出てしまってはいけません。この制度が上手に機能することが学問を志す若者個人にとって有益なのは勿論ですが,自衛隊の人手不足緩和,さらには社会全体の教育水準向上にも資することになるのですから。以下「このような点に留意すべきだ」と感じた点を申し上げて行きたいと思います。
 まず,この記事では「大学に進学する場合」とありますが,大学に限定するのは不適当でしょう。学ぶ分野によっては大学より専修学校高等過程(いわゆる専門学校)のほうが向いている場合もあり,また大学と専修学校とで同じ資格を取得出来る場合(ex.看護師)に片方だけが補助対象というのは妥当性を欠く話です。これに関しては「どんな学校でも補助するのか」といった指摘も予想されるところですが,たとえば「大学・専修学校高等過程・その他防衛大臣の認定を受けた学校等」を補助対象にするといった形で対応可能かと思われます。
 2つ目に,任期満了後直ちに進学・予備自衛官に任官する場合だけでなく「任期満了から一定期間後(たとえば2年以内)に予備自衛官に任官し進学する場合」をも補助対象にする必要があると考えます。仮に任期満了後直ちに進学の場合のみに補助対象を限定すれば,進学希望の自衛官は現職として任務をこなしながら受験勉強をしなければなりません。たとえば「医師になりたい」と考えている者にとっては浪人による受験勉強専念を認めないのは酷な話でしょう。受験勉強に専念出来る高校生や浪人生でも医学部への合格は至難の業なのですから。因みにその浪人をする際に赴く予備校の中には「専修学校一般過程」として認められているところもあり,またそうでなくても予備校は勉強をする所です。これをも補助対象にする必要があるかは疑問ですが,折角制度を作る以上は「予備校も補助の対象とする」「予備校在学年数を大学の在学年数から差し引いて補助する」「別途資金貸与等の制度も設ける」といったことの是非について検討する価値はあると思われます。
 3つ目に,これは上記の浪人費用の件とも無縁ではありませんが「何年間補助するのか」という点も明確にする必要がありそうです。たとえば元々6年制の医学部や薬学部については,これは卒業までの補助が妥当でしょう。では4年制ながら大学院修士課程への進学がむしろ常態化している理学部や工学部に進学した場合はどうか。或いは文学部に進学して教授に才能を認められ強く推奨されて大学院に進学した場合はどうか。いっそ「大学院修士課程までは補助対象にする」というのが公平かもしれません。「国から補助されるからと,研究する気など無い者が進学してしまったらどうするのだ」というのは,あまり考える必要の無い問題です。そういう者は大学院の入試を突破出来ないでしょうし,仮に突破しても修了出来ないでしょう。もしやる気は無いのに院試に合格し無事に学位をも取得出来たならば,それは「曲がりなりにも高度な学識を身に付けた人材にはなれた」ということです。無事に高度な学識を習得出来た者について,周囲が今さら本人のやる気を云々する必要はありません。
 4つ目に,卒業後の就職についての問題です。自衛官の任期は「自衛官候補生」としての勤務期間(採用から3か月間)を含めて陸上自衛官なら2年,海上・航空自衛官なら3年です。かつての新卒至上主義華やかなりし時代には「2浪までは問題にしないが,それ以上は」などということが囁かれていました。仮にこれを機械的に当て嵌めれば,高校卒業後直ちに陸上自衛隊に入り任期満了後すぐに進学した者を除いて就職は困難という話になってしまいます。無論,現在では新卒至上主義はかなり衰えているし,まして自衛官経験者はその規律正しさや使命感・根性の強さ等で何処の職場でも大いに歓迎される存在ですから,あまり心配は要らないかもしれません。それでも「他の大卒・院卒者に比べて高齢」という点が就職の不利にならないよう,国としても積極的に動くべきでしょう。記事に「就職時の実績向上のため経団連や日本青年会議所(JC)に対し積極採用を働きかける」とありますが,任期満了直後の就職者のみならず進学した者についても同様の働きかけを行う必要があると思われます。公務員試験には現在でも年齢制限がありますが,こうした任期制自衛官を経て進学した者については年齢制限を緩めるような対応を求める必要もありそうです。
 最後に,これも広い意味では就職の話ですが,卒業後に「自衛官に復帰したい」と望む者については原則受け入れるルートを作るべきでしょう。自衛官として任期を立派に満了し,その後も予備自衛官として訓練を受け続けている能力・適性抜群の人材が,以前よりも高度の学識を身に付けてフルタイム勤務の自衛官として自衛隊に復帰してくれれば,これは自衛隊にとって大歓迎すべき話です。即戦力として活躍してもらうのはむしろ当然の話ではないでしょうか。

 以上,この記事を読んで大いに賛成すると同時に「こういった点を詰めればさらに良いのではないか」と感じた点を申し上げさせて頂きました。皆様はどのようにお考えでしょうか。
 この「任期満了後の自衛官の進学補助」が大成功を収め,学問を志す者への支援として良好に機能すると同時に自衛隊のさらなる精強化にも資することになれば,それは何よりも歓迎すべきことですね。



任期制自衛官、満了後に大学学費補助へ 防衛省、予備自の登録条件に
https://www.sankei.com/politics/news/200922/plt2009220013-n1.html