除去修復のメカ | ぐうたら能無し教授の日記(坂口謙吾)

除去修復のメカ

 7 DNA修復レンチ



“除去修復系”

 この修復系には代表的なものが二つある(図)。一つは、既に述べた塩基除去修復(BER)である。単一の塩基対に対する障害を修復する機構である。もう一つは、ヌクレオチド除去修復(Nucleotide Excision Repair略してNER)と呼ばれる機構である。紫外線によるものを含め、放射線、化学薬品などから来るいろいろな外部からの損傷によって、数十塩基対に及ぶ比較的大規模な、二重鎖を歪ませるような損傷に対し行われる修復である。

 BERは主としてDNA合成中の自発的な間違いを修復するメカであるが、NERは外からDNAが損傷を受けた場合の修復機構である。NERは更に細かく“ゲノム全体の修復”(Global Genome Repair、GGR)(これはGG-NERと呼ぶこともある)と“転写に共役したヌクレオチド除去修復”(TC-NER)に分かれている(図)。この本ではそのプロセスに働くタンパク質因子に注意して欲しい。これらの除去修復は細菌から人や植物に至るまで共通の機構が存在しているが、これらのメカを動かす因子は生き物の種間で非常に異なっていることを紹介する。進化の要因としてこの知識が極めて重要になる。

 NERに関与する遺伝子群の研究は、人の遺伝病の研究によって大きく進んだとも言える。遺伝病は学問的には突然変異株である。まだ実験生物を用いた巧妙な突然変異株の創り方が未発達だった頃から(温度感受性株作成の概念が無かった頃)、大いに研究は進んだ。一方BERの欠損した遺伝病は発見されておらず研究の発展が遅れた。逆に言うと、BERこそ生命の維持に本質的なもので、NERは補助的なメカであることを示唆している。これらNERの機能不全が原因の遺伝的疾患として、代表的なもので次のようなものがある。

*色素性乾皮症(Xeroderma pigmentosum、XP)

 GGR型のNERの機能不全による遺伝病である。この病は紫外線に非常に高感受性で、日光過敏症、皮膚やその他臓器における癌やシミそばかすの増加をもたらす。XPAからXPGまでの7つの相補群(表)からなる患者が見つかっており、それぞれが異なる酵素を欠損していることが原因である。つまりXPAからXPGまでの遺伝子産物はNERに必須のタンパク質であることが分かる。XPAは大規模に発生したDNAの“紫外線損傷をまず見つけ出す損傷構造依存性”の“DNA結合タンパク質”(UV-dependent DNA binding protein、UV-DDB)である(図)。

*コケイン症候群 (Cockayne syndrome、CS)

TC-NERの機能不全が原因であり、損傷はまず転写中のRNA polymerase IIによって発見される。CSA、CSBの2つの相補群(表)からなるが、これらの遺伝子産物がTC-NERに作用する。

 これらの知識を元に、今ではさらに実験生物の温度感受性の突然変異株を用いた研究が発展し、今ではBERも含めた除去修復のメカはかなり精緻に分かっている。

ぐうたら能無し教授の日記(坂口謙吾)




つづく