最近、昭和期の経済小説にはまっています。
もともと就職活動の時期には、商社や金融機関では、日々どのようにビジネスが行われているのか、リアルな現場のイメージを感じ取るために、黒木亮さんの作品は数多く読みました。
しかし今社会人になり、僅かながらも「会社」というものと、「それを取巻く環境や様々な登場人物」に触れることで、経済小説の持つ独特の世界観が織り成す面白さが分かるようになってきました。
最初は、黒木さんの本を読み返す程度だったのですが、高杉良、城山三郎、山崎豊子、等と時代順にさかのぼり、渉猟しています。
特に昭和期の経済小説が面白いのは、ほぼ事実をベースに、黒幕政治家や財界の実力者、官僚など、個性の強い登場人物の抗争や陰謀を描いているところにあります。
昭和期のいわゆる政官財「鉄のトライアングル」に見られる、持ちつ持たれつの癒着構造と、その当時実際に関わった人々の息づかいが聞こえてくる。
それが平成に入り、よりコンプライアンス、透明性、説明責任が厳格化し、あらゆるものがシステマティックになることで、昭和期のように圧倒的な個性を持つ人が活躍する機会は減ってしまったように感じます。総理大臣ひとつ例にとっても、昭和には田中角栄をはじめ強烈なパーソナリティを持った人が多くいましたが、平成の総理大臣で後生にも名を馳せるような人は、小泉さんくらいじゃないでしょうか。
勿論、今でも、机の上の議論だけで物事が進むわけではありません。多かれ少なかれ、影響力のある人の繋がりっていうのは、あらゆる業界でも機能しているはず。
例えば、どの総合商社も、経産省や財務省の次官、審議官クラスの人を社外取締役に迎えてます。エネルギーや金属の資源開発の規模が大きくなっている中で、どうしても一社単独で進めていくことは難しく、政官の資金的、政策的な後ろ盾がないとやっていけません。
ただ、今のほうがより、さっぱりしてるのかなとは思います。
また、徹底したリアリズムがあるのも魅力の一つです。
最近、半沢直樹がブームになりましたが、勧善懲悪の図式と、明確な起承転結があり、主人公は最終的には報われる。手に汗握り、エンターテインメント性抜群です。本自体の長さも文庫で上下二冊くらいにおさまり、映画を観たりスポーツ観戦をするような感じで読めます。
一方で、昭和期の作品、白黒はっきりつかない。読後の爽快感みたいのはない。不器用ながらも自分の信念を貫くことの登場人物の葛藤や苦悩が描かれています。
前のエントリー
でも書いたことですが、結局人間の人生は起承転結があるわけではなく、終っているのか終ってないのかというようなところを永遠に繰り返す。だからこそ、自分に嘘をつくことなく、かっこよく生きていけたらいいなと思うわけです。
長々と書きましたが、
特に面白かった3作品を紹介したいと思います。
「不毛地帯」山崎豊子
言わずもがなかもしれませんが、すばらしい作品です。
商社を志す就活中の学生は是非読むべきだと思います。
まずよくもここまで緻密な情報収集をしたなと驚かずにはいられない。
ソ連、米国、イラン、と舞台が目まぐるしく変わるダイナミックさや、
綿花、航空機、船舶、自動車、石油と扱う商材もそれぞれよく説明がなされており、
勉強にもなります。
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「粗にして野だが碑ではない」城山三郎
これは伝記ものですが、丸紅の朝田さんも商社パーソン必読の書としてあげています。
その商才のセンスから、戦前の三井物産でトップとなった後、78歳の高齢で当時は誰もがなること拒んだ国鉄の総裁になった石田禮助の生涯を描いたもの。
裏表が全くなく言いたいこと単刀直入にいい、国鉄でも痛みを伴う改革に着手したにも関わらず、勤務の最後の日には、「廊下から正面玄関にかけて職員や女性職員の人垣で埋まり、さらに道路にも、その先に当時設けれられていた歩道橋にも鈴なりになっていた。」といかに人から愛されていたかが分かります。
人が資産である商社において、どうすれば彼のように信頼を集められるか考えさせられる本です。
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「シルクロードの滑走路」黒木亮
「トップレフト」など投資銀行を志す学生にとって、黒木亮の必読の書がいくつかありますが、自分のお気に入りは、商社の航空機リースを題材にしたこの本です。
一進一退の交渉シーンは、リアルかつ専門用語も平易に説明されており、非常に楽しく読めます。
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