昨日でプティ・デビューの片付けが終わり

大家さんへの引き渡しとなりました

片付いたお店の中に入ると

なぜだか10年前にタイムスリップしたようで

これからお店がオープンするあの時のワクワクするような感覚になった

壁の腰木ひとつとっても

みんなでひとつひとつ貼り付けた思い出

沢山のレンガを買ってきて

フランスの友人が作ってくれたマントルピース

当時のスタッフと一緒にチクチク縫って作った手作りのソファー

この鏡は

この棚は

このワインセラーは

このタイルは

この壁は


お店をオープンする時お金がなかったから

あれもこれも

みんなで協力して作った


テーブルもいすも

天板の木を買ってきてやすりをかけてニスを塗って


この場所で沢山の幸せな人生のはじまりがありますようにと


この10年間夢を見ていたんだろうか

今はオープン準備をしていて

その間にふと眠ってしまったような感覚になった


でもそばに

娘がいて

夢じゃなかったのだなと思い直した



最後の営業が終わった後

一週間かけて夫が片付けをした

彼の心も整理しているのだろうと

本当に手が回らないところだけを手伝って

あとは見守っていた

しっかりお店と自分と向き合って

けじめがついたようだった




下北沢という街は

本当にお店の入れ替わりが激しい

出来てはなくなり

なくなってはまたすぐできて

ずっと続いていたお店もなくなってしまう


最近は長年愛されてきた

神社や銀行までなくなってしまった



そんな街で10年間もお店を続けられたということは

ものすごいことだと

街に詳しい人は皆言ってくれる

私もそう思うし

それは、お客さんやスタッフ

大家さんやまわりにいてくださった人

そして、遠くからも支えてくれた沢山の人のお陰だと思う

感謝の気持ちでいっぱいで

少しだけさみしい気持ちになった

夫が最後まで愛をもって自分のやりたいことをやれたこと

それを応援できたこと

よかった

全部選んできたこと

間違いじゃなかった



家族三人でプティ・デビューにお礼を言おうと手を合わせる


すると娘が声に出して話はじめた




プティ・デビュー

いままでどうもありがとう

プティ・デビューはきょうでおしまいだけど

またはじまります

ありがとう



その言葉を聞いて

夫と二人で思わずはっと顔を見合わせました



プティ・デビューは

シンボルのように階段の下に船長さんの人形があり

船窓があり

気圧計があり

錨やhandleがあった

棚の上には古いトランクケースが飾られ

誰かの帽子が置いてあった

入り口正面には港の絵があり


ブランデーのビンに入った船のオブジェがあった

カウンターに並ぶ椅子の下の荷物置きのネットは

漁の網をイメージしたものだった


ロゴにも使われている女性は

船の先端についている女神だ



私が襖にかきおろし

お店の天井にずっと飾られていた女性は

船長の永遠の恋人

踊り子という設定があった





船長は旅をしているんだね

愛するあの人を模した女神をその船の先端に印して

踊るように楽しい未来へいこうという彼女に導かれるように

旅を続けているみたい

世界中を旅して

下北沢のこの場所が気に入って

停泊しているんだねと








ずいぶん昔に



そんな物語を思い付いて夫に話したことがある




じゃあ、プティ・デビューはまた出航するんだな




夫はそういうと

ワクワクした顔をしていた




そうだね

新しい街

新しい国

今度はこちらから

みんなに会いに行ってもいいねと



プティ・デビューは

お店であったけれど

そこにはレシピがあり

エスプリがある

それはお店の魂やアイデンティティのようなもので

店舗がなくなっても簡単に消えるような物ではないと思う



事実、あのキッシュやステーキフリットは

ゴンアルブルで食べられるし

エスプリも継承され進化している



お店も生き物や魂みたいだ


なくなってしまったようで

実はどこかにそれが受け継がれ

続いている


踊るように楽しく生きていこう



さぁ

こっちだよ






あの人はステップを踏みながら

そっと振り向き

笑顔で歌っていた