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古い木製のその部屋は

建物の一番てっぺん



古いジュース瓶の蓋や、


壊れた釣り竿、ひと夏の思い出なんかが





何百何千と突っ込まれたガラクタばかりの屋根裏部屋



部屋には


電気配線の故障でときどき思い出したように


パチパチとスパークはする真空管があるだけで

明かりはなく



誇り塗れの壁に


ちょこんと並ぶ小さな2つの円い窓が


唯一の明かり取りであり



もちろんテレビなんてないこの部屋から

生まれてこの方一歩も外に出たことのない彼にとっては



その2つの窓が唯一のビジュアル的な情報源であった





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彼はこの部屋で


糸巻きのしごとをしている




明るい日差しの降り注ぐ日も


暗くしんしんと降り積もる雪の夜も




彼はただ

膨大な量の糸を

きれいに巻き続ける




けれどただ糸を巻き続ける単純そうに見える作業も実は容易ではない




こんがらがりの糸で

突然立ち止まったり


ひきつれつれの糸で

ハラハラ綱渡り気分を味わったり


ゆるゆるの糸は

どこからか漏れだした雨水でびしょびしょみずびたしだったり




彼の部屋にある糸は一筋縄ではいかない



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ときどき


本当にときどき




それは一時間で終わることもあれば

一週間続くこともあるのだけれど


糸巻きの機械が
完全に止まってしまうことがある





昔は彼も驚いて

無理やりに機械を動かして

危うく糸を切りそうになったこともあるが


今はそういったことはせず

静かに2つの窓のカーテンを閉める




そして

昔紡いだ糸の 失敗して団子になったところを見つけては


そっと撫でてみたり


また、とても上手に巻きつけたところを見に行って

誇らしい気持ちになったりしてやりすごした






しばらくすると

カーテンの隙間から光が差し込み


糸巻きの機械は

また何事も無かったかのようにカタカタと回りだす


すると彼もまた




そっとカーテンを開け
何事も無かったかのようにして糸巻きを始めるのだ






沢山の巻きあがった糸は

時々カタンという音を立てて部屋の外へ出て行くことがある


すると

たいてい下の階から

なにやらパタンパタンという音がする


音はしばらく続く





そしてある日





窓の外を見ると

彼が巻いた糸で出来た

色とりどりの布が

誰かの家の物干し棹で風に吹かれて踊っている



あそこの家では
カーテンに

あそこの家では
テーブルクロスに


あそこの家では
可愛いあの子の小さなリボンになっているんだ




そう思うと彼は

とても誇らしいような恥ずかしいような気がして


さぁ、今日も糸を巻こうと思う




彼の部屋の2つの窓のカーテンが開いている時も

閉まっているときも




彼は誰にも知られずに

一人で働いている










あなたが何も出来なくて眠っているときも

彼はあなたの頭の中で
一生懸命働いています


だから、とっても疲れて精神的に参ってる時も
焦らないでいいんだよ


彼のしごとがうまくいくために
私たちは休むのがしごと


そんなときもあります