高齢社会を生き抜く新行動3原則

9月5日(木)

財政検証公表

 厚生労働省が公的年金制度の財政検証結果を公表しました。データは総じて公的年金財政の厳しい状況を示す内容で、日本経済の成長率が横ばいのケースで所得代替率は3割近く低下するという将来予測になっています。いみじくも年金2千万円不足と喧しくメディアから批判を浴びる憂き目に遭った金融審議会市場ワーキンググループの報告書による問題提起が、現実の課題であることを裏付ける検証結果になったと言えましょう。

 日本の公的年金制度は現役世代が引退世代の年金給付分を負担する世代間仕送り方式なので、高齢層が少なく多数の若年世代で支える構造だった高度成長期には充分機能した同制度が、長寿化の進展と共に少子人口減少を伴って急速に支える側の現役世代が減り、支えられる側の高齢者が増える超少子高齢社会を迎えている日本では、給付水準の低下が不可避なことは自明の理で、公助の「公的年金」に加えて自助の「じぶん年金」創りがこの先は欠かせないことが、より一層明確になったわけです。

 

出来るだけ長く働いて

 少子高齢社会の進展は労働生産人口の減少と直結して、すでに働き手が不足しています。そして「人生100年時代」はこれまで60歳定年退職という常識を覆し始めました。今回の財政検証でも、今20歳の人が現状水準の公的年金を受給するには68歳まで働く必要があるとのデータを示しています。

 我が国では今後労働力不足が常態化することを踏まえても、60歳以降の就業機会はますます増えるはずで、まず自助の第一歩は出来るだけ長く働き続けることだと言えましょう。そして労働所得を高く維持させるためには、言うまでもなく自身の労働価値を高める努力が欠かせません。専門性や技能を磨く努力は世代を問わず必然のこと、という新たな常識を受け入れなければいけません。

 そしてもう一つ、長く働き続けると共に公的年金受給開始時期を繰り下げること。現在この繰り下げ受給を75歳まで延ばすことが検討されており、その場合所得代替率は100%が確保されるとの試算があります。現状でも70歳まで支給開始を繰り下げることで、公的年金支給額は生涯42%アップします。長寿化に対する豊かな人生への対処策として、出来るだけ長く働きながら、その分公的年金受給開始時期を遅らせる。公的年金は自分で選択出来る時代であり、これを新常識として据えましょう。

 

長期投資はエンドレスで

 更に重要な自助に向けた新常識が、自らの長寿化に鑑みた金融資産長期化の実践です。それは生涯スパンでの長期資産運用の継続であり、言わばエンドレスに長期投資家で居続けるということです。

 これまでの常識は、退職時期の60歳までを目標に運用して、退職後はそれを銀行に預金しながら取り崩して老後生活資金に充てるという考え方でしたが、長寿化で人生が伸びる分の必要資金を確保するためには、60歳以降も長期資産形成を続けることで、まだまだお金を殖やして行けるわけです。

自分自身は時間の経過と共に高齢化が進みますが、お金は決して歳をとるわけではありません。相変わらず自分の代わりにお金には元気に経済活動の中で働いてもらうことで、私たちは年老いてもお金を通じて経済活動の参加者で居られる。そしてお金が育ち続けることで、長寿に必要な資金を確保して行くことが出来るわけです。

 

殖やしながら遣う新常識へ

 令和時代からの高齢社会を生き抜くための新常識は、①出来る限り長く働き続けて、②公的年金受給開始年齢を繰り下げる。そして長期資産形成を生涯軸で継続することで、③お金を殖やしながら遣う、という新3原則です。

 件の市場ワーキンググループ報告書でも、現役世代は出来るだけ早く「イデコ」や「つみたてNISA」を有効活用した「長期・積立・分散」投資による資産形成への行動を促し、退職世代以降も資産運用の継続とその後の計画的な取り崩しの実行を勧奨しています。

若い時期から積立を始めて、生涯軸で長期投資をずっと続けていれば、長寿になればなるほど運用期間も長期化してお金が育ち続けると共に、やがてあの世に旅立つ時には投資信託のまま相続することで、次の世代に長期投資のバトンを繋げて行くことも出来ます。世代を超えた超長期投資で資産を渡せたならば、子や孫の代にはお金の不安は一掃されることでしょう。本物の長期投資とは、未来に向けて富を紡いで行く素敵な行為なのです。